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第40話 終結
20日午前9時、ミュリエルとモーリスは、ばらばらに運び出された遺体21体を、つなぎ合わせた。そして、彼らを警察署の遺体安置所へ運ぶよう要請した。
アンドレが近づいてきて言った。「警官が1人行方不明だ」
「内通者は逃げたか」モーリスが言った。
「マルセル警察に捜索するよう指示を出した。マルセル駅は封鎖されたままだし、街道は検問が緊急配備されるから、マルセルから出られないはずだ。そのうち見つかるだろう。そっちは?」
「身長165㎝、東邦の骨格、デュヴァリエ伯爵の似顔絵、それらを鑑みるに、彼がデュヴァリエ伯爵で間違いないでしょう」
ミュリエルが指し示した遺体には、布がかけられていた。
「見ないほうがいいか?顔だけでも確認したいのだが」アンドレが訊いた。
「見ないほうが良いかと思います。お顔が半分崩れています」
「そうか、シクストは?」
「シクスト・コルディエ元少尉は、確認できます」ミュリエルは遺体にかけられた白い布をめくり、顔だけ出した。
アンドレは違和感に気がついた。白い布は、腰当たりから下の部分の膨らみが、異様に小さい。そのことについて、考えないほうが身のためだろうと思い、違和感を無視して、遺体に近づいた。
「間違いない、シクストだ」アンドレは眉間に皺を寄せた。「こいつが自爆を選ぶとは、思わなかった」
「同感です。コルディエ元少尉は、自殺するタイプではないように思います。デュヴァリエ伯爵の計画を、知らなかったのではないでしょうか。誰1人逃げ出すことなく、自爆を選んでいる。もしかすると、誰もこの計画を、知らなかったとは考えられませんか?」
「フェルディナンの無理心中か。調べる必要がありそうだな。全員の身元と、それぞれの接点。以前から知り合いだったのか、そして、同じ動機を抱えていたのか。犯行動機が知りたいな、なぜガルディアンと名乗るフェルディナンに、こいつらは加担することになったのか。デモスとの繋がりがあったのかどうか」
「何にせよ、爆破犯が死んだんだ、後味の悪い終わり方だったけど、これで解決か?」フィンが訊いた。
「ああ、解決だ。先ほどエテルネルから王都の捜査本部宛に、犯人死亡で解決したと伝えたと連絡があった」
「ようやく俺たちのバカンスが始められるな。あと4日しか残ってないけどな!」フィンが悔しそうに吐き捨てた。「こいつらのせいで、めちゃくちゃ楽しみにしてたミュリエルと一緒に水着でイチャイチャもできなかったし、婚約式だって流れたんだぞ、結局お前たちは何がしたかったんだよ!」
「婚約式ならできそうよ」マドゥレーヌが言った。「爆弾騒ぎのせいで、式のキャンセルが相次いだらしいわ。教会の予定は、数か月先まで、がら空きの状態なの、4日間はオートゥイユ家が貸し切りにしたから、いつでも都合のいい時にベットゥ・ア・ボン・ディウ教会へ行ってちょうだい」
「本当か!ありがとう、マドゥレーヌ嬢」フィンが瞳を輝かせながら、マドゥレーヌに礼を言った。
マドゥレーヌは少しだけ鬱陶しそうな顔をした。「あなたたちは、マルセルのピンチに手を貸してくれたんだから、このくらい、お安い御用よ。マルセル領からのお礼だと思って受け取って」
「ありがとうございます。マドゥレーヌ嬢。あなたも参列してくださると嬉しいです」ミュリエルが、マドゥレーヌを誘った。
「私は忙しいのよ。時間があったら行くわ。時間があったらよ。約束はできないわ」マドゥレーヌは照れくさそうに言った。
午前10時、ミュリエルたちは、警察署へ移動し、地下の薄暗い安置所で、遺体の調べを進めた。
身長、体重、頭や腕、足といった体のサイズを、部位ごとに細かく計測していく。そして、既往歴と死因を特定する。
マジックワンドのスキャンで分かることは、それだけではない。胃が完全な状態であれば、最後に何を食べたのか、胃の内容物を調べることで判明する。
また、時間と魔力を、多く必要とするが、血中のアルコール濃度や、薬物の使用も、血液を調べることで、つまびらかにすることができる。
午後16時、ようやく、最後の診療録を書き終え、ヴィラ・レ・ドニへと戻ってきた。
ミュリエルたちは、輸送機から航空母艦へと降り立ち、小型船で岸まで戻ってきた。
「おかえりなさい、ミュリエル」ジゼルと、イザベルと、ギャビーは、3人の帰りを今か今かと待ち続け、輸送機がヴィラの上空へ姿を現すと、砂浜まで小走りに出てきて到着を待った。
「ただいま戻りました。爆破犯は全員死亡してしまいましたが、事件は解決しました。婚約式を執り行えるようにと、マドゥレーヌ嬢が手配してくれました。いつでも都合の良い時に、教会を利用して良いそうです」
「よかったわね、ミュリエル。あなたのドレス姿を見るのが、待ち遠しいわ」ジゼルがミュリエルを抱きしめた。
「早速、エルフリーデ様と打ち合わせをしなければなりませんね」イザベルが涙を流すギャビーの肩を抱いて言った。
「イザベルさんには、色々とお世話になってしまいました。私がしなければならないことまで、引き受けてくださいました。ありがとうございます」ミュリエルが言った。
イザベルの瞳にも涙が浮かんだ。「いいんですよ。私も楽しかったですから、妹を送り出す気分って、こんな感じなのかしらって——私に妹はいなかったんですけど、なぜか、ミュリエルさんのことを、本当の妹のように感じるんです。私なんかが烏滸がましいことですけど、亡くなった夫に、どことなく似ているからかもしれません」
その夜、ミュリエルとフィンは、プライベートプールで、2人だけの時間を楽しむことにした。
小ぶりな胸と、小ぶりな尻、きゅっと引き締まったウエストもいいが、やはり、ミュリエルには、もう少し肉をつけさせようと、フィンは思った。ムチっとしたミュリエルは、きっとエロさ満点だろう。フィンは、それを想像するだけで、下半身が反応してしまいそうだった。
「おいで、ミュリエル」フィンはミュリエルを水の中へと誘った。
「エルさんが着ていた水着は、こんなに小さくありませんでした」ミュリエルはムスッとして言った。ミュリエルたちが戻ってきて、犯人死亡の知らせを届けると、ジークフリートとエルフリーデは、ようやく護衛から解放されると喜び、ギャビーと、ユーグと、ティボーを誘って、海で泳ぐことにしたのだ。
エルフリーデの美しすぎるボディーに、海軍の兵士たちが見惚れたのは言うまでもない。しかし、ジークフリートとフィンに睨まれ、エルフリーデの艶めかしい水着姿を、記憶から吹き飛ばしただろう。誰だって命は惜しい。
「いいんだよ。ミュリエルの水着姿は、俺しか見ないんだから」フィンはミュリエルの唇に、チュッとキスをして、こぼれそうになっている胸にも、チュッとキスをした。「さあ、飲んで。ジン・バックを用意したよ」
ライムの酸味と、ジンジャエールの爽やかな甘みが、ミュリエルの口の中を満たした。
フィンはミュリエルの口に吸いつき、舌を滑り込ませた。
フィンはミュリエルの口の中を、存分に味わい言った。「甘くて美味しい」
ミュリエルは頬を赤らめて、視線を逸らした。
上空を輸送機が飛び、航空母艦へと降り立った。
「アンドレ王子が帰ってきたのかもね」
ミュリエルたちは先に帰ってきたが、アンドレは事後処理に追われていた。
「時間がかかりましたね。サンジェルマン宰相閣下のところへ、行っていたのかもしれませんね。犯人死亡の知らせを、伝えに行ったのかもしれません」
「そうだね。宰相の家族には、知らせたのかな?」
「どんな状態でも、お別れの挨拶をする時間があるといいですね——犯人には、自爆するのではなく、きちんと罪を償ってもらいたかったです」
「うん、そうだね」フィンは悔しそうにしているミュリエルの背中を、優しく撫でた。「ホテルの爆破で亡くなったのは92名、負傷者は45名だ。何度死刑になったって、足りない罪だよ。初代ガルディアンより、多くの命を奪ったんじゃないか?」
「なぜガルディアンを名乗ったのか……」ミュリエルは考えた。
「都合がよかっただけじゃないかな。フェルディナンは兄に嫉妬した。シクストは金が欲しくて依頼を受けた。軍を困らせることができれば万々歳。ついでに、むかつく奴らを火炙りにしてしまえ。みたいな感じかな」
「そんな身勝手な理由で、大勢の善良な民が、道連れにされたのでしょうか。やり切れません」
「そうだね、呆気なく死んでしまったから、被害者遺族も、怒りをぶつけるところがなくて、苦しむだろうね。シクストの狙いはそれかもね。シクストを野放しにしてしまった陸軍は、バッシングを受けるだろう」
「死と引き換えに、自分を見捨てた陸軍に復讐をしたということですか」
「見捨てられて当然のことをしたんだから、恨むなんて、お門違いだけどね」
フィンはミュリエルのグラスを受け取り、唇に唇を押し付けた。その唇が、ゆっくりとミュリエルの首筋を撫でる。
「フィン……」
「誰も見てないよ。ミュリエル、愛してる」フィンはミュリエルの水着を巧みに、素早く脱がした。
※
この続きは、『大魔術師は庶民の味方ですⅡ〜ラブシーン〜』へお進み下さい。
https://estar.jp/novels/26234123
⚫︎本編全体をレーティング設定にするほどラブシーンが無い
⚫︎全ての年齢の方に本編を引き続き楽しくお読み頂きたい
この2点からラブシーンだけ別途記載することにいたしました。
読み難いとは思いますが、ご了承ください。
また、ラブシーンは本編のストーリーに影響を及ぼさないよう配慮しておりますので、読めない方にも安心して本編を引き続きお楽しみ頂きたく思います。
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