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エピローグ
「ほ、本当に行くんですか?」
不安混じりに歩きながら隣の男性の顔を窺う。
しかし、返ってきた答えはごくあっさりとしていた。
「何で? 金曜だっていうのに」
「何で、もなにも……だって……」
「ほら、行くよ? 黒瀬」
そしてそう云った男性は、戸惑っている黒瀬、と呼んだ人物に構わず先へ先へと歩いて行ってしまった。
「あーあ……」
仕方なくその後に続く彼女……黒瀬 香帆。
段々と遠ざかってゆく背中を見ながら、香帆は深い溜息をついた。
仕事を終えて一息、たまたま職場に残っていたところ、同じ部署の先輩である隣の男性……刈谷 康介に誘われて外に出たまでは良かった。
が、しかし。
まさかその行き先がこんな所だとは思いもしなかったのだ。
“アヤシイ”お店が軒を連ねる、この区域……とは。
だからと云って一人で帰るわけにもいかなかった。
そんな事をしたら、後で何を云われるか判ったもんじゃない。
「奢るから」と云われたのがせめてもの救いだろう。
「はぁ……」
「黒瀬?」
「今行きますよ」
答えると、香帆は雑踏を掻き分けて後を追った。
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