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 アパートの部屋に戻り、風呂を上がってから思い出し、ハンガーにかけたジャケットのポケットを探る。右手に収まるほどのミニカー。詳しくないから車種は不明。軽く引っ張ると運転席と助手席のドアが開く仕掛けになっている。  炬燵にもぐってテレビを点けたままミニカーを指でいじくっている内に思い出した。俺はこれを見たことがある。ずっと前、小学校に上がる前だ。  史斗(ふみと)がこれと同じものを持っていた。幼馴染で物心つく前から一緒に遊んでいた、同い年の友人だ。彼は乗り物が好きで、誕生日やクリスマスといった節目に車や電車のおもちゃを買ってもらっては喜んでいた。これも彼が五歳の頃、俺の家へ遊びに来た時に手にしていたものだ。  それにしても、すごい偶然だな。俺はこの時、誰かのいたずら説を信じていた。電車に乗り合わせた子どもが、目の前のポケットにおもちゃを突っ込んだのだと思い込もうとしていた。  車をひっくり返して、絶句した。  車体の裏側には、白い傷が走っている。当時の記憶では、ミニカーを羨ましがった俺と取り合いになり、その拍子に車に傷がついてしまった。母親に叱られ泣きながら彼に謝った苦い思い出が蘇る。ミニカーには当時見たのと寸分違わない傷が走っていた。 「フミ……」  久々に彼の名を口にした。高校卒業以来会っておらず、連絡も取っていなかった。だが大事な幼馴染に違いない。何か悪いことがあり、それを知らせるため、彼が俺のそばに思い出の品を送りつけたのではないか。  馬鹿馬鹿しい想像だが、一旦思い込むと不安がこれでもかとこみ上げる。だが、夜の十一時は電話をするには遅すぎる。悶々とした気持ちを抱え、俺は炬燵からベッドに移動した。
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