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 朝になると、早速フミの実家に電話を入れた。彼の家庭は複雑で、高校生になっても専用の携帯電話を持たせてもらえず、彼と連絡を取るには実家の固定電話に電話を掛けるしかなかった。番号を押すのは三年ぶりだったが、無事に電話は繋がってくれた。  俺が名乗ると、電話を取ったおばさん、つまりフミの母親の声音は明らかに強張った。お久しぶりと言う声が、岩のように硬い。 「久しぶりにフミと話がしたくて。今、家にいますか?」  今はいないと返すのに、俺はいつ帰ってくるかとしつこく追撃する。おばさんの声音から、何かしらの事情を隠しているのを察する。伊達に彼の幼馴染はしていない。フミと喧嘩をするときの機嫌の悪いおばさんの声は、俺の鼓膜にもしっかり染み付いている。 「帰ってきたら、折り返してくれるようお願いできますか。できれば今夜にでも話したいんですけど」  食い下がり続けると、おばさんは大きなため息をついた後に教えてくれた。 「あの子、どっかにいっちゃったのよ」  要領を得ない俺に、おばさんは続ける。 「だからいつ帰ってくるかなんて知らないわ。もう帰ってこないかもしれない」  フミは実家と折り合いが悪かった。高校を卒業して数か月後に家出をしてからそれっきりだという。  通話の切れたスマホを片手に、俺はしばらく呆然とするしかなかった。
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