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計画は完璧なはずだった。
それが一本の電話で狂ってしまった。
かかってきた電話をとった後、無意識にスマホを左のポケットに入れてしまったのだ。
計画を実行する前に、まずスマホを別のところに入れ直さなければいけない。
自然に、さりげなく。
今日という日のために、長い時間をかけて練った計画だった。
それが実行する前にこんな問題が発生するとは想定外だ。
いや、大丈夫。
考えろ。必ず何かいい方法があるはずだ。
けれども、急がないと時間がない。
このままでは目的の場所に着いてしまう。
そうなったら終わりだ。
そうだ!
天気を確認するためにスマホを取り出して、その後右のポケットに入れればいい。
我ながらいい考えだ。
困った時の「天気」は最強のアイテムだ。どんな時でも「天気」さえ出せばなんとか切り抜けられる。
「明日の天気ってどうなんだろう」
さぁ、今だ! さりげなくスマホを……
「晴れだって。温度も今日より上がるみたい。さっきビルの、ほら、いつも天気予報が表示されてるやつに出てたよ」
隣を歩く陽菜が笑ってこちらを見上げた。
「今日は寒いのにね」
「そうだね」
「こんなに寒いんだったら手袋持ってくれば良かった。手が冷たくなっちゃった」
まずい。非常にまずい。
何か、何か他の方法を……
陽菜とは付き合い始めて1ヶ月。今日は3回目のデート。
定番の映画を観て、カフェに寄った後、駅に向かって歩いている。
本当はもう少し一緒にいたかったけれど、陽菜に夕方からバイトが入っているというので、早めに切り上げることになっていた。
今日は朝から雪が降ったりやんだりしていて外はとても寒い。このことは今日の予定をたてる時に週間天気予報で確認済みだった。
だからこその計画だった。
シュミレーションを重ねた、完璧な計画。
電話がかかってくるまでは……
母さん、『牛乳買って帰って』って、わざわざスマホにまでかけてくるほど最重要事項なのか? 今日牛乳がなかったからって、地球が滅びるのか? 俺は、今日のこの計画が失敗に終わったら、絶望するんだよ。這い上がれないくらい深い谷底に突き落とされるんだよ。
陽菜が、俺のコートの端を引っ張った。
「ねぇ、さっきポケットに入れたスマホ出してよ」
言われた通りスマホを取り出した。
「それ、右のポケットに入れて」
スマホを右のポケットに入れ直す。
「ポケットGET!」
陽菜は俺のコートの左のポケットに手を入れると、無邪気な笑顔を見せた。
「光くんも」
「え? あ、うん」
ポケットの中で、陽菜と手をつないだ。
さっきまで冷たかったふたりの手がふんわりと温かくなっていく。
『ポケットの中で手をつなぐ計画』、クリア?
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