上手く言えないの。

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上手く言えないの。

友人から年賀状代わりに干支折り紙が届くようになったのはこの子年からでした。丑、卯、の寅年が無いのはワタクシの不幸に寄り添ってくれたからで、彼女は毎年作って施設への寄付を続けております。一時、文章の裏読みをしなければならない特殊な環境下にいたトラウマで彼女はメールが得意ではありません。ワタクシの軽口メールに怒りで絶縁と返すほどに思考に余裕がなくなることもありました。声音と表情のないセリフは読み手によって如何様にも解釈できる怖さをワタクシは知ったのです。レスポンスを強要しないやりとりに手紙は良いものです。 今回の地震でも通信障害が起きました。不要不急な通信をせず、一枚のハガキにかかる手間を考えてしまったワタクシは、彼女にメールで、折り紙ありがとう、とやっと無事の連絡をいたしました。気の利いた言葉などでてきやしない。長文メールに彼女が疲弊することもワタクシは知っています。上っ面のセリフを裏読みして不信になり自己嫌悪することも友人でいてよいのかとネガティブになることもわかっていて、だからこそ、上手く言えずにもだもだと、ただワタクシは無事で折り紙が嬉しいと、貴女も無事だと信じている、それだけを、いえ、それしか言えないメールを送ったのです。 こんな時に、ほぅっと詰めた息を吐きだして温かくなれる言葉を本心からかけられるワタクシになりたいのです。
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