としがみさま

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 2023年は最悪の年だった。  彼女に振られ失業し、日雇いで凌ぐ毎日。  来年はいい年にしたいと、俺は神社に詣でることにした。  実は暮れに面接を受けた会社があり、合否は年明けと言われた。最後は神頼みだ!  年末年始は独りで暇だ。まずは近所の狛犬ならぬ今年の干支の狛兎がいる神社に参り、そのまま少し歩いて龍を祀る神社に年明けと同時に参るという計画を立てた。  龍の神社に向かっていると、少し前を小さな婆さんがヨロヨロ歩いていた。大きな風呂敷包みを背負って、「ああ、大変だ。大変だ」とブツブツ言っている。余程重い荷物なんだろう。 「婆ちゃん、どこ行くの?」  俺は声をかける。 「兎の神社から龍の神社にね、年明け前にこれを届けないといけないんだ」  余程急いでいるのか、歩みを止めずに言う。   神社の関係者? 「俺も行くから、持ってやろうか?」  俺の言葉に婆さんは、俺を上から下まで見た。 「あんたに持てるかね?」    はっ? 婆さんに持てるもの、俺が持てないわけないだろう。 「任せてよ。婆ちゃんよりは力あるからさ」  それなら、と婆さんは風呂敷包みを俺に渡す。  持つとどしっと重さが堪える。石のようだ。これを婆さんは持ってたのか?  俺は婆さんの真似をして、風呂敷包みを背負って歩き出した。 「大丈夫かい?」  婆さんは時々、心配そうに俺に聞く。 「大丈夫だけど、だんだん重くなってねえか?」 「育ってるからね」 「育ってる?」  どういう意味だ? なんか変なもの持たされてるんじゃないかと思って、俺はぞっとした。  軽快に歩いていた俺の足が、重さに耐えきれず段々遅くなる。 「ほら! どうした? 年明け前に着かないと困るんだよ!」  婆さんに急かされ、俺は歩みを速める。  これ、本当になんなの?  どこか遠くの寺の、除夜の鐘が聞こえてきた。早くしないと年が明けるぞ。  肩に喰い込む重みに耐えつつ歩き続けると、遠くに目指す神社の鳥居と初詣を待つ人の長い列が見えてきた。 「なんとか間に合ったね。あんたじゃなきゃ、間に合わなかったかもしれないよ。ありがとね」  鳥居の少し前で婆さんは言う。 「これ、なんなんだよ?」  俺は婆さんに風呂敷包みを返しながら聞く。 「歳神様だよ。お礼にあんたに運を授けようかね。今年はいいことがあるよ」  婆さんがそう言って笑った途端、年が明けて参拝客から歓声が上がった。それに気を取られた俺が視線を戻すと、婆さんも風呂敷包みも消えていた。  松の内が明けた頃、俺の元に採用通知が届いた。 <了>
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