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こころの病院・こころの薬
私は美術館や図書館が、とても好きです。
時間が許すなら、何時間でもそこで過ごしたい。
猪熊弦一郎さんという画家の方が、「美術館は心の病院」という言葉を残しています。この言葉に、私はとても共感します。
美術館というあの空間で、お気に入りの絵を眺めていると、刺々した心がまろやかになったり、心の欠けた部分が緩やかに埋まっていく。静かに落ち着いて好きな絵を眺めていると、それまでに溜まっていた心のモヤモヤが、流れていくような気がする。明日も大丈夫だと思えるんです。
私は、もちろん絵画や彫刻など美術作品が好きなので、よく美術館に行きます。でも実は、美術作品を見たいというだけではなく、絵に添えられている解説文や説明文を読むのも目的だったりします。
たまに、はっとするような表現がある。この絵をこんな風に文章化するんだという気付きもあったり。小説ではないからこそ、読んでいて面白い。また、画家の方の言葉というものも、とても面白い。独特の言語表現をしていたりするので、思わず読み入ってしまいます。
ということで、お一人、私の好きな画家さんを紹介したいと思います。
私は元々、印象派やシャガール等の幻想的な絵が好きで、写実的な絵は面白くないと思っていました。写実なら、写真でいいのでは? 的な考えを持っていました。今となってみれば、何と浅はかな……すみません。
で、その考えを180度変えてくれたのが「高島野十郎」さんでした。
この方の絵を見て、写実に対して、私はなんて浅い見方しかできていなかったんだろうと思いました。
この方の絵は、いわゆる、緻密な写実画。本当に細部まで、丁寧に細かく描き込まれている。自分の目に映るものを、その存在そのものをキャンバスに写し取ったような絵。絵だけでなく、絵を飾ってある周りの空気までも澄み渡り、透き通るような絵なのです。
展覧会で、この方の「からすうり」の絵を見た時、しばらくその絵の前から動けなくなりました。美しいというのは勿論なんですが、何というか、画家の祈りのようなものを感じました。画家の目を通して、筆を通して、このからすうりの命を永遠にキャンバスに留めておきたい、という祈り。
絵というのは、画家の目を通した世界・対象への、切なる祈りでもあるのかなぁと思いました。
これは、言葉の芸術である、小説や詩にも通じるのではないでしょうか。
詩は、世界・対象への祈りを言葉にして綴ります。小説では、世界・対象への祈りが物語に込められていると思います。
絵画表現、言語表現と、手法は違っていたとしても、その祈りが作者だけでなく見る人・読む人も癒すというところは、同じではないでしょうか。
ただ、美術作品を見るには、美術館なりに足を運ぶ必要があります。だからこそ、「美術館は心の病院」なのかなと思います。
小説や詩は、本という形で手に取ることができ、常に側に置いておくことができます。そう考えると、小説や詩は心の市販薬、常備薬、かもしれません。
私は、自分用のこころの薬として詩や小説を書きますが、もしそれが、他の誰かのこころの薬になってくれるなら、これ以上に嬉しいことはないです。そうなれるように、牛の歩みですが、少しずつ少しずつ書き続けていけたらなと思います。
2024年10月22日
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