龍と石と虎と 2

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龍と石と虎と 2

 「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄」という展覧会へ行った感想の続き。  二月以降は、神奈川県立近代美術館 葉山に巡回するらしいので、ネタバレしたく無い方は、ここで回れ右。  少しスペースを入れます。  展覧会では手紙もたくさん展示されていて、漱石と芥川の往復書簡もありました。  芥川はその中で、近況をつらつら綴り、芋粥の出来が納得いかなくて~的な事、句を同封したが久米正雄に月並みと言われた~的な事を書いています。  漱石からの返信では、芋粥と句について褒めてもらっています。この手紙を受け取った芥川は、思わず顔をほころばせただろうし、何なら久米に自慢したのでは?と思いました。私ならそうする。間違いなく。  この手紙を読んで、私の中で芥川のイメージが少し変わりました。  物凄く頭の切れる、冷静で冷淡な人というイメージがあったけど、この手紙の芥川は上手く書けないと愚痴りつつも漱石に甘えているような風情があって、そこはかとなく可愛らしい。  この他の手紙でも、自分が送った干物のことを長々語っていたり、漱石を敬愛していることが文章にも滲み出ていました。  中学生?の団体に学芸員さんが、「芥川にとって、漱石は常に最推しだった」と語っていて、思わず深く頷きまましたよ(笑)。  後になって気がついたのですが、二人の往復書簡、ごく短い頻度でやりとりしてるんですよ。消印見たら、手紙が届いた次の日には返信を書いて送ってて、いやはや驚いた。どちらも筆まめ。  私なら尊敬している人から手紙が来たら、すぐさま読んで気持ちを落ち着かせるために数日置いてから返信するか、勿体無くて封すら切れなくて数日後にようやく開封の儀をするとか、なんかそんなことをしそう(笑)。  読みたいけど読みたく無いとか、そんなアンビバレンツ。……いや、モチロン読みますけど。  それから、例の、有名な「牛になりなさい」の手紙も展示されてて、実物を見ました!  漱石は、芥川や久米に、手紙で牛になりなさいと語っています。なお、漱石が牛について言及している手紙は2通ありますが、後に送った方がぐっとくる内容です。ネット上にも文章がありますので、機会があれば是非どうぞ。  結局、芥川は馬で、漱石でも牛と馬の間で、ドイツ語と書を終生続けた菅が牛だったのかなぁと思いました。それぞれに、それぞれの良さがあるのではないでしょうか。  芥川は、でも、牛を目指してはいなかったんだと思う。漱石は牛を目指したが道半ばで終わった。菅は気が付いたら牛だった、というところかなぁ。まあ、私個人の勝手な感想です。  芥川、漱石から「鼻」を激賞してもらい、その手紙の中で「ずんずん御進みなさい」という言葉をもらっています。それも展示されていました。  また、漱石の死後、芥川が詩集を送ってくれた若い学生?に、同じように「ずんずん御進みなさい」と励ましている手紙も展示されていて、胸に来ました。  漱石のあの言葉を、ずっとその胸に残していたのかなぁ、と。漱石が早くに亡くならなければ、芥川のその後の人生もまた変わっていたのかな。やるせない。  あ、菅については、ほとんど語っていませんね(汗)。  私、書に関しては、全く無知なのですよ。善し悪しもわからないし。草書・行書になると、書いてある文字すらわからない……。  ので、楷書の文字が異常に揃っててすごいとか、なんて書いてあってどういう意味かわからないけど流れる形がきれいとか、その程度です。ただ、羅生門の題字は、あの話にとてもよく合っていると思いました。  あと、三人の年表があったのですが、漱石が「吾輩は猫である」の原稿料で買ったパナマ帽よりも上等なパナマ帽を菅が被ってて漱石憤慨、と書いてあって、笑いました。人生年表に、そこ重要か?と。  まあ、夢十夜の第十夜で、パナマ帽が重要アイテムとして出てくるから、私としては美味しいエピソードでしたけど(笑)。  それにしても、三人に共通しているのは、圧倒的な知性と教養。  芥川と漱石は英語教師をしていて、菅はドイツ語。  芥川と漱石は小説家として、菅は書家としても有名。  芥川も漱石も、絵を描く・書も嗜む・俳句を詠む。  文化・芸術の面の色々を行っている。一つでも出来たら凄いのに、何でこんなに色々できるんだろう。芥川は菅との交流で書に目覚めたらしいので、周りの影響もありそう。  元々の資質+環境+本人の興味関心・努力、なんだろうな。私も努力すれば少しは……まあ、地頭が違いすぎてまず無理ですね(遠い目)。  絵画は、関根正二・村山槐多・岸田劉生・坂本繁二郎など、同時代の画家の絵も沢山展示してありました。芥川が言及した絵もあったり。この絵をこんな風に見たんだなぁと。芥川から絵の解説を聞いているみたいで、楽しかったです(笑)。古賀春江やルノワール、ビアズリー、ゴヤ、ロダンもあった。  私的に一番嬉しかったのは、鴨井玲「蜘蛛の糸」の絵を見られたこと。展示されているとは知らなかったんですよ。以前開催された個展に行けず後悔していたので、一作品でも見られて本当に嬉しかったです!  この展覧会で、芥川や漱石や菅虎雄、あの時代の文化人の精神をちらっと垣間見ることができたかなぁ、と勝手に思っています。  ただ、原稿や書簡など、思わず読んでしまい、普通の展覧会よりも観て回るのに時間がかかりました。行かれる方はご注意下さいませ!  更には、筆文字を読み慣れていないので、文字を探しつつになり、ある意味、暗号解読です。  でも、充実感で一杯。文字と文章と美術、芸術にとっぷり浸れて大満足な展覧会でした。  あ、グッズや図録も充実してましたよ〜。図録はものすごいボリュームですよ。私は図録を買っても、読み返すことが基本ないので買いません(全部覚えてるんで!と言いたいですが、そんな事はあり得ないので、こうやって書き留めておくんです。はい)。  が、そんな私でも、相当買うかどうか悩みました(笑)。  もし、行ったよ!という方がいらっしゃいましたら、是非感想をお聞かせくださいませ! それでは、今回はこのあたりで。 2024年1月19日
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