17.ユアンside

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17.ユアンside

 妹分のアザミが兄貴に惚れているのは知っていた。  ……というか、屋敷の連中は全員知っている筈だ。アザミは分かり易いからな。隠せていない。隠す必要もないけどな。むしろ俺的には「もっとアピールしろ」と言いたい。  まあ、そんなアザミの気持ちなんてお構いなしに兄貴はあっさり断った。それも「恋愛対象にならない」とキッパリ。しかも「男が恋愛対象だ」と付け加えていた。なんで言わなくていい事まで言うんだ!!    普通の貴族の娘ならショックで倒れるか、泣いて怒るかところだろうが、そこはアザミだ。  彼女は全く気にしていない。  アザミは「キース以外の男性に興味なし」と公言しているようなものだからな。兄貴に「男が好きだから結婚できない」とフラれたところでダメージはあまりなかった。流石だ。  ただ、その後の家族会議が少々荒れたがそれは仕方ない。  母は、俺か兄貴のどちらかとアザミが結婚する事を望んでいたからな。親友の忘れ形見。実の娘同然のアザミが『嫁』として法的に家族になれる日を待ち望んでいた。跡取り娘だから養子に出来なかったからこその手段だろう。  その念願の()計画を不意にしたのが長男。  兄貴がアザミをフった事でショックを受けていたし、父は呆れ顔だった。  結局、両親を説得して兄貴は独身を貫き通すことが決まった。    こっぴどく振られたにも関わらず、兄貴とアザミは仲良しだ。以前よりもずっと親密度が増している気がする。なんでも兄貴の恋の相談に乗っているそうだ。  何をどうしたらそうなるんだ!? 「私、キースの親友になる事にしたの!」  満面の笑みで言われた時は本気で意味が解らなかった。  だが、今ではその意味がよく理解できる。  兄貴の事が本当に大好きなんだな。うん。    俺は兄貴の実の弟だ。  それでも兄の恋愛相談には乗れないし、兄の趣味も理解できない。正直、兄貴の良さが全く分からない。   「アザミ、兄貴の何処が良いんだ?」 「全部!」  即答された。 「特にあの美しさは国宝級よ!あとね……」  その後も延々とアザミの兄貴への想い(賛美)を聞かされた。  殆どが『美貌』について語っていたが……。  どうやら、兄の『顔』が好みのようだ。  それも物凄く。  さっきから兄貴の顔がどれだけ美しいかを力説している。確かに兄貴は美形だ。  アザミは、兄貴の容姿が好きなのか?それとも中身が好きなのか? 気になった俺は、一度本人に直接聞いてみたことがある。   「アザミ、もしもだ。もし、兄貴に今のような美貌の持ち主じゃなかったら好きにならなかったのか?」    すると、アザミは首を傾げながらこう答えた。   「うーん……そうねぇ。考えた事もないけど…………美しさがなかったとしてもやっぱり好き……かな?でも恋愛になってたか、って聞かれると……どうだろう?」    やはり顔か。  アザミにとって兄貴の顔だけが好きなのか。  俺としては複雑な気分だ。 「だって、考えても見て?あの美貌なのよ?公爵夫人にそっくりの美貌。それもただ綺麗なだけじゃない。色気っていうのかな?妖艶な美貌と怪しげな雰囲気を醸し出してる。アレこそ傾国の美しさだわ。ユアンもキースの弟だけあって綺麗な顔立ちだけど、どちらかというとカッコイイ系イケメンでしょ?でもキースは違う。美しいの!人形のように綺麗なのにセクシーなのよ。もうね、同じ人間とは思えないくらい完璧な美貌よね」    ああ、うん。分かった。  アザミが兄貴を愛していることはよくわかったからその辺にしておいてくれ。聞かされるこっちが恥ずかしい。  いつか、顔のいい男に引っ掛かって痛い目をみるんじゃないのか?心配だ。兄貴が付いているから大丈夫だとは思うけどな。それにしても……まさか、アザミがここまで面食いだったとは思わなかった。  俺の予想は当たった。  数年後、アザミは結婚した。兄貴とはまた違った美貌の男と――  俺が知ったのは全てが終わった後だった。
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