いつか君に震えるだろうか

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バシン! しゃべるな、動くな、息をするな鬱陶しい。 震えるな、なんで震えてんのよ、私が悪いの? お前がグズで何もできなくて、私に迷惑しかかけてないから私は殴ってるのよ。お前が悪い。何なのほんと、飯食ってるだけで何の役にも立たない。金も稼げないしお前がいるせいで生活費めちゃくちゃかかるっていうのに。 産まなきゃ良かった、最悪! バシン!  久々にフラッシュバックを彼女の目の前で起こしてしまって。騒ぐでも泣くでもなく、周りの音が一切聞こえない放心状態というのが二十分ぐらい続いた。さすがに心配そうにどうしたのかと聞かれて、ついぽろっと。誰にも言ったことがなかったのに幼少期の話をしてしまった。彼女なら安っぽい同情なんてしないと思ったから。  そしたら彼女、いつになく真剣にその話を聞いて。よしと大きくうなずいて。 「(みやこ)君」  ふふふんと、得意げに笑う彼女。こういう顔した時は大体ロクなことがない。いきなり富士山登頂に行こうとか、自転車で奥州街道横断しようとか、暇だからトライアスロンやろうとか。アイドルみたいな見た目に反して脳筋だったと気づくのに二ヶ月かかった、失念していた。それに全部付き合う俺も俺だけど。 「お寺行こう」 「は?」 「坐禅行くよ坐禅。ぶっ叩かれに行こう」  何言ってんだこいつ。正気か? 「虐待を受けてたトラウマがあるのに、それを勧めるわけ?」 「身動きしなければ叩かれないし。それに都君に必要なのは優しい言葉じゃないよ」  優しい言葉が、必要ない。そんな事初めて言われた。保護された後は大人は全員、インコみたいに同じ言葉を繰り返してきた。辛かったね、もう大丈夫だよ、私たちが守るからね。その言葉に心が動いたことは一度もなかった。 「必要? 大変だったね、とか」  いらないかな。 「病院行こうとか?」  いらない。 「辛かったね、みたいな」  それもいらない。 「かわいそうだね……」 「やめろ」  自分で言ってびっくりした。どうして他人から心配されて思われることが不愉快だったんだろう。それが顔に出たらしく、彼女は嬉しそうに笑う。 「やっと見てくれた」 「なに」 「都君が、自分自身を」  何言ってんだこいつ……。  女って普通そこは私を見てくれたとか、そういうこと言うもんじゃないのか。ああ、いや。こいつ普通じゃなかったんだ。情け容赦ないお寺知ってるから行くぞ、と手を引っ張られた。
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