いつか君に震えるだろうか

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 叩かれる。叩かれる時はいつも身構える。体に力を入れていないとバランスを崩して吹っ飛ぶから。そうして何転んでるんだよと蹴られる。そうならないために体に力を入れていた。  でも、なんだろうな。この感じ。違うんだ。怖くて震えていたんじゃなくて。別に叩かれてもいいなんて思っていたんじゃなくて。 「何見てんだよ!」  いつも通りあの女が腕を振り上げた。今日は近くにつかめるものがなかったから自分の手らしい。直接殴ると痛いからって物を使うようになったのに。今日はよほど仕事先か男関係で嫌なことがあったんだろう、頭に血がのぼってるみたいで顔が真っ赤だ。  勢い良く、振り下ろされたその腕。俺は  バシィ!!  肩で息をしている俺。参加者全員が目を丸くしている中、遠くに吹っ飛ぶ棒。 「わーお」  彼女がパチパチと拍手をする。振り上げられた棒を俺は振り返り様に思いっきり弾き飛ばしていた。多分前代未聞だろう。反撃する一般人。  住職は怒るでも驚くでもない。穏やかな表情だ。逆にそれが俺には意味がわからない。なんてことをするんだと注意をしていいのに。 「気は晴れましたか?」 「え」 「あなたが座禅をしている時ずっと。なんだか面白くなさそうだったので」  胡座かいて座ってるやつを後ろから見てて、つまらなそうとかわかるもんなのか。その後他の客は帰されて俺と彼女が残った。特に話をしようと言われたわけでもないけど俺の前に坊さんが座る。 「叩かれることには慣れていたんです」 「はい」  ねぎらいの言葉は無い。今の一言で俺が一体どんな立場の人間だったのかわかっただろうに。それが俺にとってはとても心地よかった。 「でも叩かれていいって思ってたわけじゃないし、叩いてきたやつの事は」 「はい」 「大嫌いだったんです。だからあの日」  叩かれた後に、腕に思いっきり噛み付いた。俺に反撃されると思ってなかったあの女はギャーギャー喚いて俺をめちゃくちゃ叩いて、それでも俺は口を離さなかった。  子供で、筋力が発達してない状態で大人に勝てるわけない。でもそんな人間でも最大の武器っていうのは噛む力、顎の力だ。歯が生え始めた赤ん坊にだって噛み付かれたらまあまあ痛い。栄養失調のガキでも相手に怪我をさせるだけの力は口しかなかった。
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