いつか君に震えるだろうか

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 結局その騒ぎを聞きつけた近所の人が警察に通報して、俺を思いっきり殴りつけてるところを警察に見られあの女はその場で逮捕となった。こいつが悪い、私はけが人なのよと叫びながら。 「その時俺とあの女を引き離そうとしてくれた警察の人にちょっと待ってくれって言って。あの女に言ってやったんです」 「四百五十八回」 「は!?」 「お前が、僕をぶったり蹴ったりした数」  数えてた。そう言うとあの女は目を見開いた。 「大人になったら覚えてろよ。大きくなったらお前より力が強くなってるし。同じ回数、同じ方法で全部お前に返してやるから」  目の前でそう言ってみせると、あの女がブルブル震えていて。この女ってこの程度のことで震えるつまらない人間だったんだなって思ったら。  そんなつまらない女に苦しめられてきた俺は、この世で一番つまらない存在なんじゃないかって思った。全てがつまらなくなってしまった。何にも情熱が持てなくなった。 「祖母にあの女は今どこで何してるのかって通い続けたらいつの間にか引っ越してた。助けなかった自分もどんな目にあわされるかって思ったんでしょうね。めんどくさいから探さないけど」  は、と。あまりにも馬鹿馬鹿しくて鼻で笑ってしまう。 「あの女に一発入れてやりたかったなってずっと思ってた」 「なるほど。だから私のところに連れてこられたわけですか」  何のことだろうと思っていると、彼女はいたずらっ子のようにニヤニヤと笑う。 「ふふふん。ここの住職さんね、めっちゃ強いのよ」 「は?」 「若い時に結構やんちゃして、血の雨を降らせたっていう伝説があるから。私子供の頃に弟子入りしたんだよね。都君の反撃に絶対負けないだろうと思ってさ」  何やってんだこいつ。いや、真の何やってんだ、はこいつじゃないか。 「何やってんですか住職さん」 「いやあ、根性がある子だったから面白くてついつい格闘技を教えたらのめり込んじゃったみたいで」 「脳筋の元凶」 「脳筋なのは元からですよ。私はその筋肉を育てただけです。いつでもスパーリングお付き合いしますよ」  この坊さんの背後に擬音が存在するとしたら。たぶん特大の字で「ドヤァ」って書いてあるんだろうなとぼんやりそんなことを考えた。なんなんだこの坊さん。 「震えていたんですか、子供の頃ずっと」 「はい」 「怖かった?」  違う。違うんだ。 「怖くて震えてたんじゃないんです」 「じゃあ何故?」 「何故……。なんでだろう。いや、きっと。怒りで、なのかな。俺に怒りなんてないと思ってたから、ずっと目を逸らしてただけだ」
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