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16
そのまま朝が訪れて、また夜がやってきた。
一日が過ぎ、二日が過ぎ、一ヶ月が過ぎ、一年が過ぎた。
そして、もうどれだけか分からない、悠久の時が流れていった。
いつしか、わたし達の肉体は崩れ去り、精神だけが残された。
肉体の輪郭を失っても、わたし達は確かにそこに有り続けて、お互いに固く抱きしめ合っていた。
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎていった。再び悠久の時が流れていった。
その間に、わたし達の精神は少しずつ交わっていき、やがて完全に融け合って、一つの精神として結びついた。
わたしの中に透がいて、透の中にわたしがいた。
わたしは今までに感じたことがない一体感の中、余りの幸せに涙が止め処なく溢れだした。
その涙は思いのほか熱く、わたしの、否、わたし達の頬を濡らして、コンクリートの橋の上に次から次へと零れ落ちていった。
気が付くと、わたし達はそれぞれに肉体を取り戻しており、橋の上で抱き合っていた。
夜空には、先程までと変わらぬ満月があり、白い光を放っている。
不思議な事に、わたしの心の中にあった深い悲しみは消え失せていた。
わたし達は、お互いにどちらからともなく身体を離した。
透が微笑んで、わたしの眼を見つめる。わたしも微笑んで、透の目を見つめ返した。
「時がきたら、ここに迎えに来るよ」
透がわたしに静かに告げた。
わたしは透の言葉に黙って頷いた。
そしてお互いに歩み寄り、そっと最後の口付けを交わした。
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