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「ただいま」  わたしは波琉(はる)を起こさない様に小さな声で言うと、アパートの扉を開けて部屋に戻った。  波琉(はる)はソファーの上で毛布にくるまって、丸くなって眠っていた。  わたしはソファーに近付くと、波琉(はる)の寝顔をそっと見つめた。  波琉(はる)は幼子のようにモグモグと口を動かした。  その様子が、とても愛しくて思わず笑みが零れた。  結局、わたしの元に残ったのは波琉(はる)だけになってしまったな、わたしはしみじみと思った。  どこか透と似たところがある波琉(はる)。  優しくて、一生懸命で、繊細で、決して人のことを傷つけたりはしない。 「琴子さん、いかないで」  その時、突然、波琉(はる)が寝言を言った。そして、その頬を一筋の涙が流れた。  ああ、わたしは――。  今度こそ、大切にしよう。  今度こそ、失ったりはしない。  わたしは、波琉(はる)の今の涙を、心に強く刻んだ。  それから、わたしは何日かぶりにシャワーを浴びた。  そして、波琉(はる)が作ってくれた枕元に置かれたサンドイッチを一口、口に運んだ。 おしまい
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