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18
「ただいま」
わたしは波琉を起こさない様に小さな声で言うと、アパートの扉を開けて部屋に戻った。
波琉はソファーの上で毛布にくるまって、丸くなって眠っていた。
わたしはソファーに近付くと、波琉の寝顔をそっと見つめた。
波琉は幼子のようにモグモグと口を動かした。
その様子が、とても愛しくて思わず笑みが零れた。
結局、わたしの元に残ったのは波琉だけになってしまったな、わたしはしみじみと思った。
どこか透と似たところがある波琉。
優しくて、一生懸命で、繊細で、決して人のことを傷つけたりはしない。
「琴子さん、いかないで」
その時、突然、波琉が寝言を言った。そして、その頬を一筋の涙が流れた。
ああ、わたしは――。
今度こそ、大切にしよう。
今度こそ、失ったりはしない。
わたしは、波琉の今の涙を、心に強く刻んだ。
それから、わたしは何日かぶりにシャワーを浴びた。
そして、波琉が作ってくれた枕元に置かれたサンドイッチを一口、口に運んだ。
おしまい
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