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3
眼を覚ました時、どちらが現実なのか、よく分からなかった。
透が生きているのか、死んでしまったのか。
しかし、混乱しているのは少しの間で、徐々に現実が押し寄せてくる。
透が、もうこの世にはいない、という現実。
そして、わたしは、また、苦しみと悲しみと絶望の淵に落ちていく。
眼を覚ました後の、いつものルーティーン。
ベッドの上に上半身を起こしたまま、しばらく動けなかった。
その後、わたしは眼を開けたまま、再び、のろのろとベッドに上半身を横たえた。
ベッドに横になったまま、わたしは向かい側にある壁をじっと見つめる。
そのまま時間だけが過ぎていく。
時折、アパートの前を通り過ぎる車のエンジン音が遠くに聞こえた。
気が付くと、わたしは、いつの間にかキッチンのシンクの前に立っていた。
そして、シンクの端を両手で掴みながら、見るとはなく正面にある窓を見ていた。
陽はすでに傾き、窓から差し込む黄昏時の陽光が、わたしの顔を茜色に照らす。
わたしは……
何をしているのだろう?
何も考えることができなかった。
また涙が溢れてきた。
透に会いたかった。
透……
わたしは声を出さずに涙を流し続けた。
シンクの中の鈍色に、わたしの顔が歪んで映る。
わたしは、その歪んだ顔を見つめながら、死んだら透の所に行けるのだろうか、と考えた。
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