5

1/1
前へ
/18ページ
次へ

5

 大学を卒業して、製薬会社に就職したわたしは、仕事に没頭した。  今までは少し頑張れば、大体のことは成し遂げることができた。  しかし、新薬の開発を行う研究部門の仕事は、そんな訳にはいかなかった。  薬の候補となる化合物を生成するだけでも、新規物質の組み合わせ方や、配合量の割合など、気が遠くなる程の組み合わせがあり、その試作と検証を積み重ねていくのは並大抵のことではなかった。  面白かった。  困難であればあるほど、絶対に成し遂げてやると、わたしは燃えた。  いつしか、就職してから所属していた劇団の練習からも足が遠のき、家と研究所を往復する毎日になっていた。  気が付けば、透とも会えない日が増えていた。  時折、透の顔が頭をよぎったけど、結局、わたしは透に会いに行かなかった。  最後に透に会ったのは、いつだっただろう?  わたしは、そんなことすら思い出せなかった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加