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 幼い頃、わたしは、いつも透と一緒にいた。  父と離婚したばかりの母は、女手一つで、わたしを育てなければいけなかった。  だから、幼いわたしに構っている暇は無かった。  仕事から帰ってきた母は、夕食の準備や洗濯などの家事を猛スピードで片付けていった。そして、最後にわたしを風呂に入れると、布団にパタリと倒れ込んで泥のように眠った。    朝は早くに起きだし、朝食を作ると洗濯物を干して、仕事に行く為の身支度を整えた。  美しかった母は、どれだけ忙しくても身支度を整えることだけは疎かにしなかった。  わたしは、化粧台の前で入念に化粧をする母の背中を見つめながら、朝食を食べた。  何か話したいことがあっても、そんな母に話しかけることはとてもできなかった。  寂しくなったわたしは、いつも透のところに行って、お願いばかりしていた。  公園に行きたい、ブランコに乗りたい、弟が欲しい。  わたしは、満たされない想いを全て透にぶつけた。  透は、そんなわたしのお願いを、いつも一生懸命叶えてくれた。(弟以外)  わたしは、すぐに透のことが大好きになった。  そして、願いを叶えてくれた透のほっぺに、いつもチュッとキスをした。  中学生になると、わたしたちは当然のように付き合い始めた。  そして、結ばれた。  わたし達の世界は二人で完結していた。  ずっと一緒にいられると思っていた。  なのに、事件は起きてしまった。
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