第一話 朝食はステーキに限る

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「おじさん、名前はなに?」  泰然が男にたずねる。彼は目上の人間にも平気でため口をきくという性質があった。 「石脇(いしわき)と言います」  男、改め石脇は、自分より四十歳は年下の泰然にたいしても礼儀正しい。 「生きていた時は、なんの仕事をしていたの?」 「警備員をしていました」 「家族はいたの?」 「いえ、両親はどちらとも私が若い頃に他界していて、私自身は人生で一度も結婚しなかったので、家族と呼べる人はいませんでした。家族だけじゃなくて友だちもいない、孤独な人生だったんです」 「……」  わたるはそう述べる石脇がせつない表情をしているように見え、胸のあたりをおさえる。 「食霊ってことは、食べたい物があるんだよね? 石脇さんはなにを食べたいの?」  泰然は質問をくり返す。
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