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「生前は、毎月給料日にステーキを食べることを自分の決まりとしていました。それを月に一度のぜいたくとしていたんですね」
「ああ、それはいいですね。僕もたまのぜいたくとして、チーズをおつまみにワインを飲んでいます」
修一がそれに共感する。仕事をしている大人の男ならなおさら気持ちがわかるのだろうと、高校生のわたるは思った。
「ところが、先日のことです。スーパーマーケットでステーキ肉を買った後、帰り道で運悪く階段から足を踏みはずしてしまったんですね。私はそのまま転げ落ちてしまい、そして死んだ実感もなく息たえて――」
「へー、石脇さんも転落死なんだ。階段から落ちて死んだ身なのは、俺も同じだよ。うん、うん。人って、本当に自分でも状況がよくわからないまま死んでいくよねー、わかる」
泰然が石脇に言葉を返す。人生の終わり方が似ている人間と出会い、気分が盛り上がってすらいる。
「ちょっと、なにが原因で死んだか、出身地が同じでうれしいみたいなノリで話したら、石脇さんに失礼でしょ」
わたるはつつしむべきだと、泰然のんきな返しに呆れた。
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