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「ステーキの焼き加減に好みはありますか?」
「生きていた時は特に考えずに焼いていましたが、しっかり焼いていた気がします」
わたるがキッチンに立つ間、修一は泰然がここで暮らすようになったいきさつを説明したりしていた。話のタネに困ることもなく、わたるの手際のよさから、ステーキはすぐに完成する。石脇が口にするまで、わたるたちはあたたかく見守った。
石脇はナイフとフォークを使って肉をひと口サイズに切り、それを口に運んだ。目を閉じ、静かに噛む。
ごくりと飲み込むと、ふたたび目を開けた。
「ああ、これです、この味。私があの日食べたかったのは」
「よかった」
料理を提供したわたるはほっとする。
「もっとも、私がいつも買っていたステーキより、こちらのステーキの方がずっと高級な味で、わたるさんの焼き方のほうが上手ですが」
石脇がわたるたちの笑いを誘う。
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