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「その肉、別に高級肉ではないですよ。だって、 スーパーマーケットでも安い値段のステーキ肉がもっと安売りしている日に、わたるがいっぱい買って、冷凍保存しているんですから。彼女、やりくりが上手でしょ」
泰然が言った。
「もう! 小國くんったら、余計なことを言わないでよ!」
わたるは怒鳴る。ステーキをそんなに買わなければならない羽目になったのは、どこのどいつのせいだと。
「ただ、わたるの焼き方がだれよりも上手だと思っているのは、俺も同じです。俺はだれが調理しても味が変わらないとは思わない。わたるが焼くステーキが一番」
泰然がとことんわたるをほめたので、クールなわたるの頬がめずらしく赤くなった。
「石脇さん、ごめんなさいね。念願のステーキを食べられたのに、うるさいやつがひとりいて。味に集中できないですよね」
わたるは石脇に言いながら、泰然をちらっと見る。彼にほめられた照れ隠しでもあった。
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