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「……」
友人の押しに負け、わたるは目を閉じて袋からチョコレートを一個だけ取ってみる。つかんでいたのはペリドットだった。
「それ、俺の誕生石だ。俺、八月生まれだから」
「えっ」
わたるは思わず頭の中で泰然と自分がそれぞれ互いの誕生石のチョコレートを取る確率を計算する。百四十四分の一という数字が彼女をさらにうろたえさせた。
「よかったね、わたるちゃん」
佐英梨はまるでこうなることを見越していたかのように、にこにこと笑っている。
「次はなにを食べる?」
泰然の興味は他の食べ物に移っていた。
「それじゃあ、これをみんなで食べよう」
わたるは学生かばんを開ける。
「クラスメートからもらったシフォンケーキ。今日、学校でおすそ分けをもらったの。これを三等分しよう」
「これが手作り? すごい! でも、いいの? 私が食べると、ふたりの食べる分が少なくなっちゃう」
「いいの。いろんな人に食べてもらった方が、これをくれた船瀬さんもよろこぶと思うな」
泰然は自分の分配が少なることに文句を言わなかった。わたるはシフォンケーキをちぎって、ふたりに渡す。
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