第一話 朝食はステーキに限る

5/21
前へ
/345ページ
次へ
 泰然がカップラーメンの容器を持ち上げ、口をつけてスープを飲み干す。彼は人間と違って物質ではないので体は透けているけれど、人間と同じように物に触れたりすることはできていた。  幽霊は生きた人間とは違って全身から光をまとっている。ぱっと見は全く同じ人間と幽霊を、わたるはその光の有無で判別していた。ただ、泰然がひときわ発光しているように見えるのは、彼そのものの肌が明るいからである。  泰然は目に見えた美男子だ。目はぱっちりと大きく、鼻筋はすっと通っている。いくら彼が幽霊とはいえ、美しい男子とひとつ屋根の下で暮らしていたら、思春期で、異性に少なからずの興味をおぼえる女子ならどきどきとするだろう。だが、生まれてから今の今までずっと恋をしたことのないわたるは彼の見た目のよさにも無関心だ。  七森家の朝食がステーキに変更となったのは、泰然がそうして欲しいと頼んだから。おしゃべりな人間のいないこの家がにぎやかになったのも、泰然がやって来てからだ。彼と出会ったことで、平穏だったわたるの人生は一変したのだった。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加