【一】1誕生日

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【一】1誕生日

【一】 「ハッピバースデートゥーユー」  ブルーのチェックの上に白のカットソーを重ね着をした山宮基一(もとい)の声がカラオケの狭い部屋に響く。 「ハッピバースデートゥーユー。ハッピバースデートゥーディア折原ー」  折原朔也(さくや)はそのきれいな歌声にため息をついた。がたつく黒いテーブルに黒いビニールのL字型のソファ。画面に向き合うところに朔也が座り、斜めになる方向に山宮が座る。ビニールの安っぽいソファの黒さが、山宮と会ったときに相変わらずの白のパーカーに黒のデニム姿の自分に落ち込んだことを思い出させる。 「ハッピバースデートゥーユー」  歌い終わってマイクを置いた山宮にぱちぱちと拍手をした。  春休みの四月一日。学校は閉鎖期間に入っており、二人とも部活のない時期だった。朔也の誕生日は早生まれの四月一日、学年で一番誕生日が遅い。一方の山宮は四月二日生まれで学年で一番誕生日が早い。二人の誕生日祝いを兼ねて、今日は午前中からデートに出かけた。  食べ歩きができる商店街でコロッケを始めとしたもので腹を満たし、四月から使える文具用品をリンクコーデで合わせるために大きな文房具屋へ足を伸ばした。五百円以内で買えるシャーペンやボールペン、替え芯、下敷きにポストイットまで揃える。テープで留められたビニール袋をがさごそと言わせて、これで受験勉強を頑張ろうと約束した。それだけでやる気が出てしまうのだから、お互いに「おれたちって単純」なんて笑い合った。  そのあとは約束をしていたカラオケに来たのだが、山宮に歌で誕生日を祝われるとなんだか複雑な気分になった。ため息をついてオレンジジュースを口にする。 「明日十八歳になる人に、十七歳のお祝いをされてもな」 「お前、祝われるやつの態度じゃねえな。もっと誕生日を味わえよ。お前を生んでくれた親に感謝する日だぞ」  ソファに座ってマイクを置いた山宮が呆れた声を出す。今日の山宮はボタンのない白いカットソーの下に少し裾の長い下のシャツを覗かせ、黒のチノパンという格好だった。自分とは違うストレートの黒髪で色がまとまっているのもあって、差し色のあるモノトーンのスタイルは清潔感がある。ちょっとカットソーが大きめのせいか、身長一六五センチを主張する彼は今日は一層小柄に見えた。
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