9 山宮、これ、やりたい

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9 山宮、これ、やりたい

「山宮、今自分がどんな顔をしてるか分かる? めっちゃエロい」  山宮が顔を真っ赤にさせてなにか言おうとしたが、「もう一回キスしよ」と言ってくちびるを押しつけると黙った。手で山宮の腕を掴んで自分の首の後ろに誘導し、最初と同じ体勢をとる。すぐに舌を絡ませる行為に移ると、またお互いにはあはあと息があがってきた。ゆるいスウェットのズボンでも前がもう痛くなってくる。  朔也は片腕を山宮のうなじに回したまま、もう片方でつっと体の中央に指を走らせた。腹筋の中央に少し汗が溜まっていて、余計に興奮してくる。そのままズボンにたどり着くと、ぎゅっと縛ってあるウェストの紐を引っ張った。山宮の細い腰に合わせてあるから、リボン結びになった先が長い。しゅるっと中央が解けると、山宮の舌の動きが止まった。もう一度真ん中に指を引っかけ、最後の絡みも解いてしまう。山宮がなにか言いかけたのは分かったが、無理やりキスを続行した。  山宮が抵抗するときがもう分かった。未知のことをするときだ。だが、気持ちいいと分かったことには抵抗してこない。  腰に指をかけると、だぼだぼのズボンに隙間が空く。そこに手をかけて下へおろそうとすると、下着まで引っ張られると思ったのか、山宮が慌てたように下着だけは手で押さえた。ならズボンはいいんだよね。そう思いながら下へ引っ張ったが、キスをしながら腕を伸ばせるのには限界がある。朔也は跨がっていた右足の指先でずるずるとズボンを下へずらし、膝の辺りまで下りると、思いきって中央に足を引っかけて一気に足先まで下ろした。そのまますぽっと足から引き抜いてしまうと、山宮が先ほどの頭を抱えたときのように首にぎゅっと捕まってくる。  ズキズキする前にこの間と同じように一緒に抜いてしまえばと思ったが、思いついて山宮の腰に腕をしっかり回した。 「山宮、これ、やりたい」  えっと怪訝そうな顔をした山宮の下半身に足を引っかけ、腰へ回した腕で体ごと引っ張り、自分は横へスライドしてそのままベッドの下へ膝をついた。驚いたように山宮が起き上がり、ベッドに座る形になる。そこで山宮の下着を掴んだ。 「あっお前!」  山宮が察した次の瞬間には口に含んでいた。山宮が声にならない悲鳴をあげて、こちらの体を押しやる。その手は汗ばんでひんやりとしていた。 「離せッ!! 電気つけっぱなしのとこで! 見られるとかあり得ねえつったろ!!」 「見てないよ。最初からずっと目瞑ってるし」 「そこで喋んなッ!!」  じゃあ喋らない。朔也はそう判断し、裏筋を下から先端まで舐めた。すると肩を掴んだ山宮の手がびくっと震える。  なんだか不思議な感覚だった。体温と同じで生ぬるくて、体とは全然違う固さをしている。自分のを触ったときの手の感触とは全然違う。山宮はどんなふうに感じてるんだろう。そんなことを思いながら裏筋を上下へ何度も舌をこすりつける。山宮が足を閉じそうになったので、すぐさま内側から抑えつけた。膝裏を持って自分の肩にかける。すると不安定な体勢に一瞬山宮の体から緊張が抜けた。その瞬間に思い切り吸うと、山宮が思い切り身震いする。 「ああっもう見てらんねえ!」  山宮が先ほどと同じように朔也の頭を抱え込んだので、「見なくていいよ」と言ってから鈴口を舌先でぐりぐりと押した。尻を掴んで体勢を固定し、口を絞って頭全体を前後に動かす。うっとかふっとか山宮が小さく声を漏らし、ぐっとそれが持ち上がったのが分かった。膝立ちの姿勢を変え、顔を動かしやすい角度にする。その間に顎から汗がぽたっと落ちた。  思ったより息がしづらい。舌を動かすことと口を動かすことが同時にできない。ネットに書いてあったことをいきなり実践するのは無理がある。気づくと必死になりすぎて息があがっていて、左手で山宮の太ももに掴まるとそこがぷるぷると震えているのが分かった。  なにこれすごい。山宮が興奮してるのが分かるとこっちまで興奮してくる。おれもかなりやばくなってきた。  歯を立てないよう気をつけながら、とにかく搾り取るように吸い上げる。先に自分の顎が痛くなるんじゃないだろうかと思ったとき、こちらの頭を抱える山宮の体全体がふるふると震えていることに気づいた。 「お、おりはら」  山宮がいきなり朔也の体を押しやった。 「やばいやばい離して!!」  すぽっと口からそれが抜けた瞬間、顔に熱いものが飛んできた。それが汗のようにどろっと垂れたので、何事かと驚いて山宮の顔を見上げる。すると山宮は呆然とした顔でこちらを見ており、一転さーっと青ざめて、そこにあったティッシュを朔也の顔に押しつけて怒鳴った。 「今すぐ顔を洗って口をゆすいでこい!!」  山宮の一声で状況が分かり、「御意!」と立ち上がった。朔也が部屋を出るとき、「ああ」と山宮の声が小さく聞こえた。 「はい、顔も洗ったし口もゆすいできました。ちゃんと歯も磨いてきました」  朔也が戻ってくると、山宮はシャツもズボンを着た格好でベッドの中央にうつ伏せで倒れ込んでいた。 「山宮先輩、聞こえましたか? 顔も洗いましたし口もゆすぎましたよ」  明るい口調でそう言いながら扉を閉めると、山宮は無言でゆっくりと体を起こした。真顔でベッドから立ち上がってこちらへやって来て、目を合わせず朔也の袖をぎゅっと掴んでベッドのほうへと引っ張っていく。  え、なになに。ちょっと、そんなかわいい誘い方して。  朔也が胸をときめかせた次の瞬間、ベッドの前で背中をどんと押された。わっとバランスを崩してベッドに転がると、仰向けに引っ張られて上から押さえつけられる。慌てて起き上がろうとしたところで「お前、俺が言ったことを忘れてんじゃね?」と山宮が腹に跨がってきた。頭の後ろに電気を背負っているので、真顔の山宮が陰に沈んでこちらを見下ろしている。 「お前の欠点は想像力。自分がされる側になるとか考えてねえ。自分が恥ずかしいことになるかもしれねえなんて欠片も思っちゃいねえ。今、油断してただろ。俺にあんなことされるかもなんて思ってもねえだろ」  淡々とした口調とぴくりともしない表情に朔也は目をぱちぱちさせた。ベッドに肘をついて軽く起き上がり、山宮を見上げて「うん」と正直に答える。 「だって、山宮にそんなことできるわけないじゃん。おれに触るのが恥ずかしいとか言ってたのに、口でなんて絶対無理だと思う」  朔也の言葉に山宮が一瞬面食らった顔をし、すぐに表情を崩して「クソ」と俯いた。 「なんで俺だけ……お前もちょっとは動揺しろよ!」  山宮が心底悔しそうに頭をわしゃわしゃっと掻き回したので、朔也はつい笑ってしまった。精一杯強がっていたらしい。 「山宮、脅しになってないよ。相手にしてほしい人もいると思うから、『俺だってお前にやるぞ』なんて言葉は相手を喜ばせるだけかもよ?」 「なに、お前、俺にされたい人?」 「あ、そこは山宮の言うとおりで、自分がされることは想定してなかったから、されたいかどうかは考えてなかった」  すると山宮がじとっとした目つきになる。 「じゃあ今考えろ。されたいかどうか」  朔也は今自分の足の間に入って屈み込む山宮を一瞬想像した。顔をしかめる。 「それって必要? おれがされたいって言っても山宮はきついだけだし、やらないなら山宮はほっとするだけだし、結局しないっていう結論には変わりないと思うけど」 「お前のそういうとこな……変に物分かりがいいの、マジで意味分かんね」  山宮が「あああ」と変な声を出して眉根を寄せて叫ぶ。 「だからよ! 片方だけがいい思いをするのは違うだろ! もっとこう、『おれもしてほしいんだけど』『ごめん、できねえ』『でもやってほしい』『悪いけど無理』みてえなやり取りがあってもいいだろ! なんで全部お前の想定通りに進む? お前のてのひらの上でごろんごろんさせられてる気分なんだわ!」 「あ、いい思いしたんだ? それなら勉強した甲斐があった!」  朔也が食いつくと、山宮が「俺、バカじゃね」と頭を抱え込む。
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