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そんなカンちゃんが仲良しだった友達の一人に、中島君という男の子がいる。カンちゃんと違って体が小さくて、眼鏡をかけた大人しい少年だ。カンちゃんがジャイアンみたいな見た目なので、中島君は“のび太君”だなんて呼ばれることもあった。
のび太君、なんて人によっては悪口だろう。しかし、中島君はけして嫌ではなかったらしい。いわく、“映画のび太君はめっちゃかっこよくて勇敢で尊敬するから!”“普段ののび太くんもむしろ親近感がわいて好き”とのこと。ものは考えようである。
その中島くんは、カンちゃんと同じく“サンタクロース信じてる派”らしかった。三人でわいのわいのと喋りながら、こんな話題が出たのである。
「サンタが贈ってくれるプレゼントって、どうなってる?本来なら、でっかい靴下の中に入れておくもんなんだよな?」
「あー、そういう話になってるね」
僕は頭の中で、サンタクロースの絵本で見た光景を思い浮かべていた。サンタさんは、ベッドのわきに吊るした靴下の中にプレゼントを入れていってくれる。そういうイメージは今でも強い。
「でも、あれは外国の話じゃない?そもそも、日本人は布団で寝てることが多いから、靴下をベッドの脇に吊るしておけないだろ」
僕は常々思っていたことを口にする。
「そもそも。プレゼントの大きさと靴下の大きさが見合うかどうかは別問題。でっけープラモ頼んだのに、靴下がちっちゃかったらどうやって入れんだよ?っていう」
「あー」
「そもそも、一般的に売ってる僕らの靴下って、小さくね?あんなサイズじゃ大抵のプレゼントは入らないだろ」
「あーあーあー……そりゃそうだ。ありがとな剣崎。お前のおかげで謎が解けたわ……」
ちなみに剣崎、というのが僕の苗字である。カンちゃんはうんうんと頷きながら、ずっと不思議だったんだよなあ、と言った。
「俺、今まで靴下なんか用意したことなくてさ。それなのに普通にプレゼントが翌朝枕元にあるもんだからどうしてだろうって」
「サンタさんによって違うんじゃないの、そのへんは。靴下がないからって、プレゼントなしにするほど冷たくないんだよきっと。それに、日本に来るサンタさんは日本文化のこともよくわかってくれてると思うし?」
「なるほど!さすが剣崎、頭いいな!」
適当に言った言葉だが、カンちゃんは納得してくれたらしい。すると、ここで黙って話を聞いていた中島君が口を挟んだのである。
「サンタさんによって、プレゼントの方式が違ってのはぼくも同意。ぼくの家に来るサンタさんは、ズボンのポケットにプレゼントを入れてくれるんだ」
「ポケット?」
「うん」
僕は思わず、彼の短パンのポケットを見る。正直、あまりたくさんものが入りそうには見えないが。それに。
――寝ている間に、親がポッケにプレゼントを入れるのか?……それ、めっちゃハードル高くね?普通起きるだろ。
何で中島君の親は、そんなハードル激高な方式にしたんだろう。僕は思わず首を傾げる。普通、サンタを装うなら、子供にバレないようにしたいと思うのが当たり前なのに。
「クリスマスイブの夜だけ、ぼく、パジャマじゃなくて普段着で寝るんだ。で、一番大きなポッケがついたズボンを履くんだよ。朝起きると、そのポッケの中にサンタさんがプレゼントを入れてくれてるってわけ」
彼はにこにこと笑いながら語ったのである。
「今年はイブが日曜日で、月曜日がクリスマスじゃん?だから、ぼくはそのプレゼントが入ったズボンを履いて学校に来ることになるんだよねー」
「え、じゃあ」
「うん!みんなにも見せてあげる、何がポケットの中から飛び出すか、お楽しみにー!」
それはちょっと面白そうだ。僕はそう考えると同時に、こんなに楽しみにしている彼の夢がどうか壊れませんようにと願ったのである。
つまり、中島君の両親が、今年の“サンタクロースチャレンジ”に失敗しませんように、と。
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