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12.最大の支援者
「アリックス!」
王宮の王妃様の私室に赴くと、私の到着を待っていたと言わんばかりに熱烈な歓迎を受けた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いいのよ、そんな事。貴女の作品の事で呼んだのですもの。さぁさ、こちらへ」
促され、部屋にある応接テーブルへ。そこには既に茶器が用意されていた。この準備の良さで、どうやら今日はここでのお喋りがメインであるという事が解る。
王妃様から紅茶を受け取ると一口啜った。
「新しい作品も大変な人気ね。どこの書店も品切れ、重版の連続ですって?」
「はい、そのようです」
実は王妃様が私の最大のパトロンである。しかもただのスポンサーでは無い。この方、王妃でありながら小説家である私の作品をいたくお気に召して下さった。表向きの役職さえ与えてくださる程には気に入ってくれているし、ご自身のお持ちの作品に私を登場させるくらいには可愛がってくれてもいる。王妃様が私を可愛がってくれるお陰で、私は未だに正体がバレる事なく、他者の横やりが入る事もなくこの仕事を続ける事ができている。有難い事だと思うわ。王妃様がいなかったら私は今頃どうなっていたか分からない。実力だけで生き残れる世界でもない。勿論、本が面白いという事も必要だけど、やはり一番は『後ろ盾』だ。それがないと本当に厳しい世界だと、この仕事を始めて知った。
私の作品は全て王妃様のチェックを受けている。それは『出版を許可する代わりにその全ての権利を私に譲れ』というものなのだが――まぁ、これは建前。なにしろ、私が書いている小説は実話が元になっているので、万が一私が訴えられた場合を考慮した対策だったりする。勿論、小説が『フィクション』だと銘打ってあるし、わざわざ自分達の醜聞が元になっているので「モデル料を払え」とか「我々の事を書くとは何事か!」と逆上するバカは貴族にはいない……はず。ここら辺がちょっと曖昧かな?王妃様が仰るには「影で嫌がらせや襲撃があっても不思議ではない」って事だけど……。
そういった諸々の事を考えた末に『王妃様の許可をもらって本を書き、それを出版社に出版して貰う』というのが最善だと王妃様と決めたのだ。
まぁつまり、そのくらい今の私は『守られている』訳なのだけどね。ありがたいわ~、ほんと。
この事を知る者は極少数。王妃様、私の小説の大ファンなのよね。
王妃様は私を可愛がって下さってる。
だから様々なバックアップもしてくれているのよね――ありがたいわ、ほんと。
「それでアリックス。新婚生活はどうなのかしら?順調?」
「王妃様……」
「ふふっ、ごめんなさい。でも気になって」
王妃様からの質問に私は苦笑いしたけど、王妃様はとても楽しそうな笑顔だった。そんなお顔は少女のようで――年を感じさせないわ。本当に可愛らしい方なのだけれどもなぁ……、この方はこういう所があるから憎めないのだ。
「そうですね、大きな問題もなく過ごしております。ただ、契約結婚ですから」
「契約から恋愛に発展するのはお約束じゃないかしら?」
「それは小説の中の世界だけですわ。現実にそんな事は起こりません。現実と物語とは似て、違うものでございます」
「あらあら、それは残念ね。でも、貴女にそんな心配はいらないでしょうけどね。自分の夫の恋愛遍歴を小説に組み込んでいるくらいですもの」
「あの方は本当に凄いんです。一緒にいるだけでそこに物語が生まれるのです。本当に面白い方なのですわ」
「あらあら、結婚生活は意外にも順調そうね」
「インスピレーションは得られてますよ」
私の言葉に王妃様はクスクスと笑って「良かったわ」と呟いた。
どうやら私の結婚を王妃様は心配されていたようだ。
「貴女には感謝してるのよ、本当に。だから、もし困っている事があるなら何でも言ってちょうだい。遠慮なんてしないでね」
「はい」
ありがたい。王妃様が『王妃陛下』になった背景には私の小説が少なからず関係している。
今では国王陛下よりも権力をお持ちの方。実質の支配者はこの方と言っても過言ではないかもしれない。
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