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もっと簡単な方法がある。例えば、鍵をかけた先生。鍵をかけたフリをした可能性はないだろうか?あるいは、先生が部室を出る時、スカートのポケットに手紙を入れてから出たということはないのか。
私がその可能性を指摘すると、どっちもノーだとえみるは首を横に振った。
「先生は外から鍵をかけたんだ。それに、部員みんなが出たのを確認してから施錠してたんだぜ?スカートに手紙を入れるなんて無理だって」
「と、いうことは……部室から最後に出たのは先生じゃないんだよね?えみるちゃん?」
「いや、俺でもない。だって最後に部長が窓の施錠とかチェックしてから出るから……あ」
ここで、ようやく彼女も気づいたらしい。窓に鍵、ドアにも鍵、ドアの前にはたくさんの観測者。――その状況で、たった一人手紙を入れられる可能性がある人間がいるということに。
しかも、一緒に着替えていたのならば、ベンチに置かれたスカートが誰のものなのかも彼女にはわかっていて然りではないか。
「え、え……うちの、部長?駿河部長が俺のことを?……マジで?」
えみるは手紙を見、困惑したように私を見た。そして、あー、と頭を抱えて見せる。
「な、なんか納得したかも。……うっかり自分の名前書き忘れるとか、部長ならやりそう。真面目でいい人なんだけど、忘れ物は結構多いんだよな」
「てことは、悪戯ではなそうだね?」
「うん、まあ……悪戯ではないと思う。そういう悪意のある行動する人じゃねえし。……とりあえず、話訊いてみるわ。女同士だし、付き合えるかっていったら無理だけど……」
それがいいよ、と私は笑った。ちなみに、女子陸上部の部長も何度か顔を見ている。えみるほどではないが、すらっとした長身に黒髪のかなりの美女だったはず。――そんな人から告白されるなんて、まったくなんて贅沢な友人だろうか!
これからもきっと、彼女はラブレターを貰いまくるのだろう。ちょっとうらやましい気もするが、それもまた青春というものである。彼女の友人として、いつか運命の人が見つかることを応援するしかあるまい。
なお。
「弥里おおおおおおおお!こ、今度は、鍵のかかったロッカーに入っていた鞄の中に、果たし状が!」
「なんでやねん!」
困惑した彼女に再びヘルプを求められるのは、その僅か一週間後のことなのだった。
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