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彼女の悩みとは。昨日の部活のあと、制服のポケットの中に妙なものが入っていたこと、であるらしかった。
ちなみに私は美術部で、えみるは陸上部。うちの学校は部活動に力を入れていることもあり、運動部系の部活はそれぞれ専用の部室を持っているのだった。まあ、どれもこれも小さなプレハブ小屋のようなものだが、それでも着替えなければいけない部活の生徒などは外から見えない場所が担保されているだけでありがたいものである。
彼女が所属する女子陸上部は、男子陸上部のすぐ隣に部室があるのだった。学校の敷地の中では、おおよそ西のはしっこに位置している。
「俺、昨日はいつも通りに着替えてさ、部室出て、陸上部の練習してたんだけど」
なお、えみるは長い黒髪のポニーテールが似合う美少女だが、一人称は俺。普段着もボーイッシュなものを好むタイプだった。
「練習終わってー。ハードルとか片付けてー。部室戻ったら、俺の制服のスカートの中に手紙入ってたんだ、これ。ちなみに封筒とかなくて、そのまんまむき出しでな」
「どれどれ」
私は彼女に言われるがまま、折りたたまれたその手紙を見せて貰ったのだった。そこにはこう書かれている。
『船橋えみるさん。あなたのことが好きです。付き合ってください。
お返事待ってます』
私はその手紙を見て、えみるの顔を見て、もう一度手紙を見た。
「……これはいわゆる、ラブレターってやつでは?」
「そうかもなあ」
「でもって馬鹿なのこの人?自分の名前書き忘れてんじゃん。返事出しようがないじゃんこれ」
「だよなあ」
彼女は頭をぽりぽり掻いて言った。
「困ったことに、差出人がわかんねーから対処のしようがないんだわ。でもって、俺はラブレター系のものを貰ったことは結構な頻度である。大体男女比半々くらいで」
「普通に女の子もいるんだ……」
「それに加えて、七回に一回くらいは悪戯の手紙でさ。悪戯した奴は毎回キッチリとシメてやってんだけど」
「シメてんの!?」
「この手紙だけじゃ、悪戯なのかガチなのかもわからん。悪戯だったらシメたいし、そうじゃないならきちんと返事がしたい。……差出人を割り出す方法とかねえかなあ?弥里、推理ゲームとか結構得意な方だろ?」
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