名無しのエドガー

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 どうやら、えみるが悩んでいたのはそれだったらしい。うむ、と私は顎に手をあてて考える。後ろの方で話を立ち聞きしている男子たちが“船橋がラブレター貰っただとおおおおお!?マジかあああああああああ!?”と何やらやんややんやと騒いでいるがスルーだ。これ以上五月蝿くするようならば殴ってでも黙らせるしかないが。 「いくつか確認したいんだけどさ。えみるちゃん、制服ってロッカーにしまってたの?それなら、ロッカーの鍵って問題が発生するんだけど」  私が尋ねると、あー、と彼女は明後日の方を見た。 「じ、実はその。俺、しょっちゅう制服とかベンチの上に脱ぎ散らかしてほったらかしにして部活に行っちゃうこと多くて。今回も、スカートはベンチの上に放置されてたんだよな……」 「変態に狙われ放題じゃん!もっと危機感持って!」 「わ、悪かったって!」  ほんと馬鹿。私は頭痛を覚えた。この友人は相変わらず、自分の容姿に自覚がない。なんでこんなにたくさんラブレターを貰っておきながら、自分がモテるという認識がないのだろう。後ろで騒いでいる男達だって、多分半分以上はそういう意味でえみるに気があると思われるのだが。  ただ、スカートが放置されていたというのならば、ロッカーのカギを開けるというミッションは必要なくなる。部室にさえ侵入してしまえば、ポケットに手紙を入れることも難しくないだろう。  ましてやうちはボロっちい公立中学である。防犯カメラのようなハイテクなものが設置されているとは思えない。 「実は、俺が気になってるのは手紙を入れたのが誰か?ってだけじゃない。どうやって入れたのか?ってこともなんだ」  彼女はさささ、とノートを取り出すと簡単に部室の構造を書き始めた。ものすごく簡易的な図面のようなものだが、おおよその様子を知るには十分である。 「俺達が部活を始めたのは放課後のこと。で、開始直後に先生が外から部室に鍵かけてんのを俺らは目撃してる」 「ふんふん」 「で、部室から俺達が出る前、必ずうちの部長が窓閉めチェックするんだ。さすがに、部長が窓の施錠を忘れるとは思えねえ。まあ、どっちにしろ今うちの部室の窓壊れてて、人間が通れるほど開かないんだけどさ。夏休みに修理業者が来てくれる予定になってるんだけど」 「ほうほう?」
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