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ちょっとだけ話が面白くなってきた。それはつまり、密室が形成されていた、ということではなかろうか。
部室はロッカールームを兼業している。入口はドア一つ、窓も一つのみ。ドアには鍵がかかっていて、窓も鍵がかかっていた。窓の施錠に関してはちゃんとえみるが目で見たわけではないが、仮に部長が忘れていたとしても人が通れるほど開かないから出入口にはなりえない。
つまり。たとえ、彼女の制服のスカートがベンチの上にぽーんと放置されていたとしても。スカートのポケットに、手紙を入れることは困難だということである。
「ついでに言うなら、今日はサッカー部がグラウンド使う日で、うちらは部室の前で筋トレと短距離走の練習くらいしかできなかったんだよ」
ここ、と彼女はノートの中、部室の前に50m走用のラインをひく。
「部室はみんなの目の前だ。仮に、ドアに鍵がかかってなかったとしても。入ろうとする部外者がいたら、絶対目に付いたと思うんだよ。でも、誰もそんなやつは目撃してないんだ」
「へーえ?そういう意味でもドアから侵入は不可能、と」
なるほど。少なくとも、ドアの方は完璧な密室であるように思える。だが。
それでも抜け道がないわけではない。例えば。
「質問。スカートの中に手紙がないって、最後に確認したのはいつ?」
「部室に入る直前にトイレ行ってて、ポケットの中の手紙がないことも確認してるぜ。つか、スカート脱いだ時にも手紙入ってたら気づいたと思うから、やっぱり脱いだ時にも入ってなかったと思う」
「OK。じゃあ次、ベンチの位置は?窓のすぐ近くじゃない?」
これは“密室殺人”ではないのだ。それこそ、部長が窓に施錠を忘れていたとして。それでも腕一本通ればトリックは成立する可能性がある。ベンチの上に置かれたスカートのポケットに、手紙をねじこむこともできるかもしれない。
しかし。
「部室の真ん中。窓からじゃどう手を伸ばしても届かない。つか、ポケットの奥にねじ込まれていたんだから、あれは外から投げたりしてつっこめるようなもんでもないだろ」
「窓からってのも無理か」
いや、まだだ、と私はこめかみをトントン叩く。密室に見えるからといって、完全な密室とは限らない。
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