落とし子のつぶやき

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落とし子のつぶやき

 海をふわふわと漂いながら、小さいその子は思いました。 「ボクは魚? それとも龍?」  この疑問は、産まれた時からありました。  でも、誰も教えてくれません。  海で出会った仲間たちには、自分と同じ姿をしたものはいなかったし、小さいその子はとても不安でした。  ある時、一匹の魚が言いました。 「お前の名前はタツノオトシゴだ。だから、(たつ)じゃないのか?」 「辰って、なに?」  小さいその子が尋ねると、魚はぐるりと回りながら答えました。 「(りゅう)だよ。空を飛ぶ、ウミヘビみたいだっていうじゃないか」 「ボクはウミヘビとは違うよ」 「だから、だって言ったろ。それだけ体が長いってことだ」  小さな子は自分の姿を見ました。  どこからどう見ても、ウミヘビのように長い体ではありません。 「やっぱり、ボクは龍じゃない。きっと魚なんだ」  小さな子がそう言うと、魚は少し笑って言いました。 「俺たち魚とは、似ても似つかないけどな?」 「魚じゃないなら、なに?」  結局たどり着いてしまう、この疑問。小さな子は寂しそうに下を向きました。  魚は頭を横に振りながら答えました。   「そいつは俺にも分からない……」  たぶん、他の仲間も分からないだろう。  ますます気落ちする小さな子を見て、魚は元気付けようと思いました。 「でもまあ、『落とし子』っていうくらいだから、でかくなったら龍になるのかもしれないだろ?」 「えっ?」 「だから、あんまり気にするな。姿は違うが、お前は海で暮らす仲間だからな」  それだけ言うと、魚は岩場の方へと泳ぎ去って行きました。  一匹残った小さな子は、海草に捕まりながら光の揺らめく頭上を見上げました。  海の上には、青い空が広がっていると言います。そこを自由に飛ぶ龍とは、いったいどんな生き物なのでしょう? 「ねえ、龍さん。あなたはどんな姿をしているの? ボクが大きくなったら、龍になれるの?」  小さな子は、自分が空を飛ぶ姿をぼんやりと考えます。 「あなたに会いたいよ。そうすれば、答えが見つかるかもしれない……」  海草から離れふわふわと漂いながら、小さな子はそうつぶやきました。 ─────おしまい
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