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あの日から世界はいびつだ。
時が立つとともに、色も音も戻ってきた。でも十年、二十年前の安いカメラを回しているかのように、少しだけ色褪せている。
そんな世界の中で、櫂を名乗る人物からのメッセージは、奈凪の目にやたら鮮明に映った。
「たちの悪い悪戯だな」
柊斗は奈凪のスマホを眺めながら、吐き捨てた。それから少し苛立たしそうに、短い
「そんなこと、言わないでよ」
奈凪は小さく呟いて、ギュッとまぶたを閉じた。脳裏に今朝届いたメッセージがよぎった。
『久しぶり。
今日で僕が死んでから、ちょうど1年だね。元気だったかい?
僕は元気、……なわけがないんだけど、ななはどうかな? ちゃんとご飯食べてるかい? 毎晩ぐっすり寝てるかい? 学校はどう? ……なんか、おかんみたいだからここまでにしておくね。
まあ、きっとななのことだから、その辺は大丈夫かなあと思います。ただ、ななは泣き虫だから泣いてないか、心配。あとおじいちゃんおばあちゃん、圭とケンカしてないかも不安かな。
あっ、そうそう。
そのうち圭から連絡が来ると思うけど、ちゃんと対応してあげてね。きっと、いいことがあるから。信じて。
それじゃあ、なな。またあとで』
何度も繰り返される「なな」の愛称。奈凪をそう呼ぶのは、世界でたった一人だけ。耳もとにつむがれる、少しだけ掠れた柔らかな声色が蘇ってくる。
――櫂。
思い出しただけで、鼻の奥がツンとした。
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