1章 始まりの音色

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 あの日から世界はいびつだ。  時が立つとともに、色も音も戻ってきた。でも十年、二十年前の安いカメラを回しているかのように、少しだけ色褪せている。  そんな世界の中で、櫂を名乗る人物からのメッセージは、奈凪の目にやたら鮮明に映った。 「たちの悪い悪戯だな」  柊斗は奈凪のスマホを眺めながら、吐き捨てた。それから少し苛立たしそうに、短い 「そんなこと、言わないでよ」   奈凪は小さく呟いて、ギュッとまぶたを閉じた。脳裏に今朝届いたメッセージがよぎった。 『久しぶり。 今日で僕が死んでから、ちょうど1年だね。元気だったかい? 僕は元気、……なわけがないんだけど、ななはどうかな? ちゃんとご飯食べてるかい? 毎晩ぐっすり寝てるかい? 学校はどう? ……なんか、おかんみたいだからここまでにしておくね。 まあ、きっとななのことだから、その辺は大丈夫かなあと思います。ただ、ななは泣き虫だから泣いてないか、心配。あとおじいちゃんおばあちゃん、圭とケンカしてないかも不安かな。 あっ、そうそう。 そのうち圭から連絡が来ると思うけど、ちゃんと対応してあげてね。きっと、いいことがあるから。信じて。 それじゃあ、なな。またあとで』  何度も繰り返される「なな」の愛称。奈凪をそう呼ぶのは、世界でたった一人だけ。耳もとにつむがれる、少しだけ掠れた柔らかな声色が蘇ってくる。 ――櫂。  思い出しただけで、鼻の奥がツンとした。
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