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幼なじみの結唯にバッタリ会ったのは、いつものように廃ホテルで未知夏と会ったあとだった。
「東方、最近何してるの?」
宝探しをしてるとも言えない。
「べつに何ってこともないけど」
「じゃあ、これから花火行かない?」
何気ない口調でそう訊かれた。
「花火?」
「今日、五瀬川沿いでやるやつ。ここ数年は中止されてて、今年は開催するんだって」
花火なんてすっかり忘れていた。
訊かれてもすぐに答えられない。
「それとも、他に行く子とかいる?」
重ねて問いかけられて、なぜか未知夏の顔が浮かんだ。五瀬川の花火のことを、未知夏は知っているだろうかと。
廃ホテルまで戻ったのは、未知夏がまだいるかもしれないと思ったからだ。
遅い夕暮れの光が町のなかを照らしだす。日が暮れたあとの廃ホテルはいつもより不気味に見えた。
(いるはずないじゃないか)
自嘲をこめてそう思う。
それなのに、どこかで期待する気持ちがあった。強く会いたいと願ったら、また会えるんじゃないかって。
「東方?」
後ろから呼びかけられたときは幻聴かと思った。ふりむくと未知夏が立っていて、びっくりした顔をしていた。
「どうしたの? 忘れもの?」
(また会えた)
信じられない気持ちで思う。
それなのにどこかで予感していた。
「未知夏は?」
正直な気持ちは言えなくてそう訊いていた。
「もしかして、まだ探してたの?」
僕と別れたあともずっと。
もしかしたら今までも。どこにも続かない沈黙と流れる空気を変えたくて、「あのさ」と口にする。
「これから花火見ない?」
「花火?」
「知らなかったんだけど、今夜打ちあげられるって」
いくらなんでも唐突すぎる。言ったあとで後悔した。未知夏だって、いろいろ事情があるかもしれないのに。黙りこんだ僕の代わりに、
「それなら、ここの屋上で見ない?」
未知夏はそう言った。
「ここで?」
「きっとここからでも見えるよ。東方に話したいこともあるし」
未知夏が手招きするように外階段を指差した。あそこから昇れば、すぐに屋上まで行けるのだろう。エレベーターは止まってるから階段で行くしかない。屋上に出られるなんて知らなかった。さいわいにも階段は壊れていない。
足元に気をつけながら一段ずつ昇っていくと、じきに屋上に到着した。暮れなずむ町が見わたせる。五瀬川の人だかりも。
ぬるい風が吹いてきて、汗がつたっていくのが分かった。一発めの花火があがる。未知夏が言ったとおり、花火はここからよく見えた。隠れた穴場スポットかもしれない。そう思ってしまうほど。色とりどりの火花が散って、夜空を鮮やかに染めていく。
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