君と最後に散った花

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「話したいことって?」  打ちあがる花火の間隔がゆるやかになるのを見はからって、そう訊いてみた。彼方にむけられた眼差しが一瞬だけ逸れる気配。 「友達のことを話したくて」  なんとなく、そうかなと思った。  何も言わずに先をうながす。 「その子はずっと家のなかで、親から虐待を受けてたの。機嫌が悪いと殴られたり、物を投げつけられたりする。だから自分だけの逃げ場がほしかったんだ。それで、この場所なら最適だと思ったの。誰に気兼ねすることなく、ゆっくりひとりでいられるから」  彼女が話す声に重なるように花火があがる。パラパラと火薬が散る音も。僕は黙ったまま、未知夏の声に耳をすます。 「家じゃ眠れなかったけど、この場所だとよく眠れた。眠ったら気分がましになって、家に帰ることができた。その子は学校に行ってなくて、友達がひとりもいなかったの。だから、誰かひとりでもいいから話し相手がほしかった。そして、ぴったりな人を見つけた。その子は初めて友達ができて、とても嬉しかったと思う。何でもない会話をするのが夢だったから」  これは誰のことだろう。  聞きながら次第に分からなくなる。  未知夏の友達の話のはずだ。  未知夏はひと呼吸おいて続けた。 「その子は『やりたいこと』をいっぱい書いておいたんだ。友達とずっと遊べるように。だからとても楽しみにしてた。それをアルミの缶に入れて、ホテルのなかに隠したの」 「それって、もしかして……」 「東方を選んだのはね、ひと目でいいなと思ったから。この子と友達になりたいって。すっごく緊張したけど、ついてきてくれて嬉しかった」  最初に会った日を思いだす。  一年前の夏休み。また今度も一緒に遊ぼうって約束したこと。初めて会った子だったけど、すぐに仲良くなれたこと。 「うそついてごめんね、東方。少しのあいだだったけど、一緒にいられて楽しかった」 「じゃあ、宝物の場所は……」  いたずらっぽく未知夏が笑う。 「あの星空の部屋にあるよ。明日になったら探してみて」 「じゃあそれを見つけて、またこうやって会おうよ。一緒にやりたいこと、たくさん考えてくれたんでしょ?」  未知夏はほほ笑んだまま、何も答えなかった。焦燥感が湧きあがる。未知夏は目の前にいるのに、何か事情があって来られないと言った理由。 「先延ばしにしたのはね、缶を見つけてしまったら会えなくなるって思ったから。ゲームを続けているうちは、繋がっていられる気がしたから」  最後の花火が夏空に溶けるように消えていく。泣きそうなのに、未知夏は笑っていた。  未知夏が泣きそうだった理由に気づいてあげるべきだったのだ。本当はもっとずっと前に。あの夏、初めて出会った日に。 「花火、とってもきれいだったね」  未知夏は最後にそう笑って、徐々に薄くなっていった。まるで初めからここに存在しなかったかのように。
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