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どれくらいそうしてボーッとしていただろう。勢いよく扉が開いて、誰かがなかに入ってきた。
「東方! 無事⁈ 大丈夫?」
結唯の声だ。目線だけでうなずくと、結唯の顔が歪んで、みるみる泣きそうな顔になった。
「行かないでって、言ったじゃん……」
その顔を見て僕は気づいた。
結唯は責任を感じているのだ。僕が忠告を無視したから。危険をかえりみず行ったから。
そこに自分の命より大切にしているものが、あるって気づいてしまったから。
僕と未知夏は、最後まで友達だった。
長くて退屈な夏休みの、ほんの数時間を共有したにすぎなかった。吹けばとぶような短い時間。それなのになんでこんなにも鮮烈に惹かれたんだろう。ずっと一緒にいたいって思ってしまったんだろう。
二度めの未知夏は幻だったのに。真昼の星のように、目には見えなかったのに。
「何が入ってるの? あれ」
アルミの缶のことだろう。僕はふっと息をもらす。笑ったつもりだったけど、そうはならなかった。他人から見ればきっと、ガラクタみたいに見えるもの。
「宝物」
小さな声でそうこたえる。結唯は納得いかないような、怒ったような顔をしたまま服の袖をぎゅっとつかむ。
「今度こそ、一緒に花火見ようよ」
その声は少しふるえていて、あの日の僕を思いだす。
屋上で並んで見た花火。炸裂するたくさんの光。隣で話す君の声。そのすべてがよみがえって、息がつかえそうになる。
「いいよ」
短くうなずくと、結唯は途端に笑顔になった。
花火を見られたら写真を撮ろう。
そして、それをその夏の一番「きれいなもの」にしよう。ぼんやり頭の隅のほうでそんなことを考えた。
宝物を見返すたび、僕は君のことを想う。
幼いあの日の僕を想う。ゆるせなかった自分のことも、遠く届かない過去になって、徐々に薄れていってしまう。それでも今だけはこの気持ちを、淡い思い出を抱きしめていたい。
「早くよくなってね」
かたわらで祈るような結唯の声がして、いつしか僕はふたたび深い眠りについていた。
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