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ひと仕事終えた1艘の小さな漁船が、灯台の脇を、ちょうど港に入ってきたところだった。
その船が着岸するのを見ながら、惣太が、
「なんか、愛美と啓太くんみたいだなぁ……」
独りごとのようにこぼす。
「……?」
何が?というように惣太の横顔を見た聡子が、彼の視線の先をたどる。そして、
「あぁ……港と、船」
聡子の顔に、優しい笑みが浮かぶ。
惣太も、ひとつ頷いた。
そのまま少しの間、惣太と聡子は、静かに港を眺めていたが、二杯目のドリンクが尽きたのを潮に、二人は店を出た。
そこで惣太は、そう言えば、というように、
「聡子ちゃんは、これから愛美の家に行くの?」
笑みを浮かべながら首を振る聡子。
「えっ?愛美に会いに来たんじゃないの?」
「行ったら邪魔でしょ」
「そんなことないだろ。親友が心配して来てくれたんだから、喜ぶんじゃ……」
「そうじゃなくって!」
聡子が、少し強い口調で惣太の言葉を遮る。
「……?」
ぽかんとする惣太に、
「惣太くんって、ホント鈍感!」
「えっ?」
「目的は済んだの。だから、一緒に帰ろ」
「……?」
「だから、惣太くんに会いに来たの」
「えっ?」
「気がつけよ。っていうか、そこまで言わせんなよ」
聡子はそう言うと、いきなり惣太の左腕に自分の両腕を回し、引っ張るように改札へ向かった。
そこまでされて、さすがの惣太も、聡子の思いを感じ始めていた。
東京へと向かう特急列車。
並んで座った二人は、シートの温もりに包まれ、夢の中にいた。
小さな揺れで、惣太が目を覚ます。と、いつの間にか、聡子が肩にもたれかかって寝息を立てていた。
「ありがとう、聡子ちゃん」
寝顔にささやきかける。
「ん……」
聡子が、小さな声とともに、細く目を開く。
その顔に、幸せそうな微笑を浮かべると、寄りかかったまま再び目を閉じた。
傷ついた心が包み込まれていくような感覚の中、惣太も再び、心地よい眠りに落ちていった。
(完)
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