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(……どういうこと?)
キツネにつままれたような気分で、彼女のスマホに電話をかける。すぐに出ると思ったのに、なぜか出ない。
惣太は「チッ」と舌打ちをして、
(んだよ。母校だからって、俺をほったらかしかよ)
と苦笑したが、その時の惣太は、まだ楽観的だった。
(最後の選手が過ぎるまでには、戻ってくるだろう)
ぐらいに。ところが……
「すべての大学の選手が通過いたしました」
広報の車が去り、人々が散っていく。それでも、愛美は戻ってはこなかった。
不意に、スマホの電話が鳴った。慌てて、ポケットからスマホを取り出すと、『愛美』の文字。前のめりになりながら、
「もしもし?どうしたの?」
しかし、一拍の間の後で、
「ごめん……」
愛美の小さい声。返事はそれだけ。
気がつけば、その向こうで、ガタンゴトンという無機質な音がリズムを刻んでいる。
(電車?なんで?)
わけがわからず、
「えっ?愛美、今どこにいるの?」
そう訊いた。
「……ごめんなさい」
彼女はそう言うだけだった。そこに、
『間もなく、風祭に到着します……』
車内放送と思しき若い女性の声が聞こえたかと思うと、プツッと切れてしまった。
(風祭って……)
ある事が頭に浮かんだ惣太は、小田原駅へ向けてダッシュした。
風祭……箱根駅伝ファンなら知っているだろう、その地名。
4区から5区へ。山登りの選手へと襷をつなぐ中継地点だ。
小田原駅から電車に飛び乗り、2駅。
風祭駅で降りた惣太は、駅伝見物を終えて駅へと戻る人々の波に逆らいながら、中継所のある、大手水産加工会社の駐車場へ向かう。
何人かの人が、何事かというように惣太を振り返って見る。
中継所に着いたが、後片付けに追われるスタッフがいるだけで、もう後の祭りのような雰囲気で、惣太の探し求めているものには出会えなかった。
愛美とは、それっきりだった。
連絡も途絶えた。
電話にも出ない。LINEも既読スルー。
いや、一度だけ返信が来た。
『ごめん。もう会えない』
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