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七倉愛美と吉田啓太は、伊豆のI町出身で、啓太が1つ年下。
家も近所で、幼い頃から仲が良かった。
啓太は走ること、特に長距離が得意で、小学校のマラソン大会ではいつもダントツの優勝だった。
中学で陸上部に入り、本格的にマラソンに取り組むと、町内に止まらず、県内にその名が知られるようになる。
高校は、陸上の名門M高校。後に進学するM大学の系列高だ。
上京し、寮生活を送りながら、ライバルたちとシノギを削る。
その中で、啓太はある夢を持つようになる。
箱根駅伝。
正月は、毎年家族そろって見ていた憧れの舞台。箱根駅伝の常連校でもあるM大学の雄姿を見るにつれ、啓太の夢は大きく膨らんでいく。
「愛美ね、そんな彼を、幼い頃からずっと応援してたんだって」
聡子が、ちょっと遠い目をした。
「……ずっと?」
「うん。もちろん、子供の時は、ただ走るのが速くてカッコよくて、仲のいい年下の男の子っていうだけだったけど」
聡子の言う事に、フッと惣太は笑って、
「だけって言うには、長い肩書きだね」
「ははは。確かにそうだね」
聡子も笑ってから、コーヒーを飲み干し、改めて今度はアイスティーを注文してから、
「まぁでも、愛美にとっては、初めはただ近所の仲良しが、小学生で初恋になり、好きになり……」
「……」
「中学卒業する頃には、すごく好きっていうぐらいになったって、愛美、言ってた」
「……そっか」
「でも、結局告白できないまま、愛美が1年先に卒業して……」
ふっとまた遠い視線の聡子に、惣太が
「1年後、高校で再会した?」
聡子は、静かに首を振る。
「えっ、別々?」
「うん。ほら、愛美んちは小さな民宿でしょ?とても東京の私立になんて行けないから」
「あぁ、そっか。でも、大学は……」
「そう。M大学。奨学金で何とかね」
と、聡子はストロー越しにアイスティーをすする。
惣太も、新たに注文したアイスコーヒーを飲みながら、
「じゃあ、M大で再会して、付き合うように?」
聡子は、また首を振って、
「なんかね、遠くに感じちゃったんだって」
「……なるほどね。分かる気がするよ」
「だよね」
惣太は聡子と目を合わせ、頷き合った。
もちろん、中学を卒業してからも、その1年後に啓太が東京のM高校に進学してからも、LINEで連絡を取り合ってはいた。
けれど、年月を経て、ひと足先に入ったM大学で、4年振りの再会を果たした時の彼は、ひと回りもふた回りも大きく見えて、気後れすら感じたと言う。
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