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「私ね、M大に入って愛美と出会ってすぐに意気投合しちゃって。で、二人でランチしながら、恋バナになった時に……」
と、聡美は少ししんみりとした口調になって、
「私の好きな人は、手の届かない所へ行っちゃったんだって、愛美、そんな言い方してた」
「そっかぁ……でも……」
「あ、なんで今、二人は……ってことでしょ?」
「うん」
「ケガがね……」
「えっ?」
「啓太くん、M大駅伝部でも有望な選手で、1年の時からメンバー入りが期待されてたんだけど。秋に、足を疲労骨折しちゃって」
「……そうなんんだ」
「うん。それからね……」
順風満帆だった彼の競技人生が大きく揺らいだのだと、聡子は言った。
ケガが完治するまで、走ることは許されない。完治してからも、ケガの後遺症が思った以上に大きく、理想の走りを取り戻せない日々。
焦りとイライラが募る一方で、周囲の啓太への注目は冷めていく。
「結局ね、3年間、一度も箱根に出ることができなくて。補欠にすら入れなくて……」
聡子の顔に、悔しさが浮かぶ。愛美と親友になってから、聡子も一緒に啓太を応援してきたと言うから、無理もない。
「そうかぁ……つらかっただろうね、啓太っていう人」
「……愛美もね」
聡子の目が、若干潤んでいる。
彼女は続けて、
「愛美ともね、だんだん距離を置くようになっていったからさ」
「……そうだったの?」
「うん。愛美は、何とか彼の力になりたいと思ってたんだけど……」
「あぁ、なんか分かる気がする」
「啓太くんの気持ち?」
惣太はひとつ頷き、アイスコーヒーをすすってから、
「自分の納得できない姿は見られたくない、って言うか、そっとしておいて欲しいって言うか……」
「男の人って、そういうところ、あるよね?」
「うーん……確かに、そういう男は多いかもね。俺はそばにいて欲しいタイプだけど」
「えー、そうなの?」
と、聡子は笑って惣太を見てから、
「だったら……」
と言いかけた口をつぐんだ。
「……だったら?」
「ううん。何でもない」
唇を軽く噛んで、寂しげな微笑を窓の外へと向けた。そんな事には気づかない惣太が、
「でも、この間の箱根で、4区を走ってたよね?」
と話を戻す。
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