2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
頬をなぞっていた雫を、そっと掬いとったのだった。
「あ。…大丈夫?」
「ッッーー!?!
っえ、あっ、だ、大丈夫ですっ …」
――あ、危なかった…
あやうく叫び声を上げてしまうところだった。
近づいてきた男が、この世の者ではない者か、情緒不安定な不審者かと思ってしまった。
実際は親切な人だっただけようだ。
盛大に冷や汗をかいた自分が恥ずかしい…
「あ、えっと…、頭痛いのを和らげようと、泣いてただけで…、
あの…お、お構いなく…」
――と、とりあえず大人しく立ち去ろう。
痛いから動きたくはないが、さすがに人がいるところで泣くのはちょっと…
と判断したのだが、何故か男に退去を阻まれた。
それどころか、彼は隣に腰を下ろし、
ふわっ
「?!」
こちらの頭を撫でてきたのだった。
え、
な、なんで?
この人…何がしたいんだ??
ふわっ
……あ…でも…
頭がなんか…
やわらかくなって、
…気持ちいい
「俺、小さい時、
熱出して頭痛くなった時はこうやって、
母親に頭を撫でてもらったんだ。」
静かな声で告げられた思い出から、彼の意図を察した。
――そっか、こういう和らげ方もあるんだ…
ぽろっ……ぽろ…
でも。
痛い時に、
誰かに助けを求めるなんて、自分には無理だ。
臆病な自分は、
"痛い"
と口に出すことすら、
もう、
できない…
…ぽろ…ぽろ。ぽろ、ぽろっぽろ
「! っごめん、嫌だった?もうやめたほうがいい…?」
急にかけられた声に何事かと思えば、
自分の目から出る水量が、だいぶ増していることに気づいた。
男が不安そうに、様子を伺っている。
「あ、ち、違うんです。
こんな風に、えっと…慰めてもらったことが無くて…、
たぶん…嬉しいんだと思います。」
本当は、嬉しいだけじゃない。
羨ましさとか、悲しさとか…その他、諸々。
胸が詰まるような感覚がこみ上がってくる。
今まで蓋をしていた感情が呼び起こされ、奔流となってあふれかえっていた。
――撫でてもらうのって、すごいなぁ。
まあ、これが最初で最後だろうけど…
だから、いいかな。
「あの、できたら…
もう少し、撫でいてもらっても、いいですか…?」
自分と彼はそのまま静かに過ごし、いつの間にか二人とも寝ていた。
先に目が覚めた自分は、持っていた付箋にお礼の言葉を書いた。
そして、それだけを残して立ち去った。
最初のコメントを投稿しよう!