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「どおどお? 可愛いでしょう〜!?」
孔雀さんは秋都様によく見えるように私の背を押す。
目の前に立った私を、秋都様はじっと見下ろした。
「ああ……可愛いな……。孔雀、これにしてくれ……」
秋都様にさっきまでの笑顔はなく、声はかなり暗い。
情緒不安定な様子が心配になったけれど、孔雀さんが作った伝票を見てそれは一気に吹っ飛んだ。
そこに書かれていたのは目が飛び出てしまうほどの金額だ。
「こ、こんな高価なものを作ってもらうなんて申し訳ないですっ! 取りやめましょう!!」
「なんでだ? 嬉しくないのか?」
孔雀さんに金貨を渡そうとしている秋都様は不思議そうに私を見た。
「う、嬉しいは嬉しいですが、嬉しくないとも言えます」
「半分嬉しいなら良いだろ」
「ああ〜っ! わ、私お父様が昔桜祭りにと仕立ててくださったお着物があるのでそれが着たいですっ!」
説得には弱いような気もしたけれど、秋都様は意外にも「ふむ」と立ち止まる。
「綺鼠の当主が担保に見せてきたものだな」
「え? ええ、そうです」
秋都様、なぜそのことだと分かったのでしょう?
不思議に思ったけれど、急にニコニコと嬉しそうにし始める秋都様を見るとなんだか追求するのは水を差すような気もした。
「それは良い、そうしよう。俺が渡した簪もあるしな」
「あ、そうですね。お着物によく合いそうです」
秋都様がどの簪のことを言っているのかはすぐに分かる。
初めて会った時にもらった桜の簪だ。
「ということで孔雀、悪い。これはまた今度にする」
「あらぁ、そう? 残念ねぇ」
「ああ。その代わり明日はよろしく頼むぞ」
「アッ、そうよねそういう事よねぇ! アタシも楽しみにしてるわぁ〜!」
秋都様は孔雀さんに見送られながら先にお店を出て行って、私も後をついて行った。
「明日は何かあるのですか?」
先程のやりとりが気になって何気なく尋ねてみると、秋都様は答える前に私と並ぶように歩調を合わせてくれる。
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