手を伸ばせば届く距離

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手を伸ばせば届く距離

 私の部屋は、母屋から一番遠い離れにある。 敷地の一番隅の方だからこういう時は不便だし、隣は竹林になっていて鬱蒼としているから誰も寄りつかない。 けれどその方が私にはかえって都合が良かった。 鬼門の前に渡り霊の種や枝が落ちていれば、それを鉢植えにして栽培していたから。  理由は一つ。 こちらの世界にはない薬草を探しているのだ。  今日拾った渡り霊もついでに部屋へ置いて行こう。 そんなことを考えながら部屋の前まで来ると、そこには意外な人の姿があった。  常子さんだ。 常子さんが何故か私の部屋の前に居る。 「あっ!! す、すず!? 台所に行ったんじゃないのかい!?」  しかも何故かものすごく慌てている。 「えっと、その前に荷物を置こうかと……常子さんこそどうしてこちらへ?」 「今日は朝食にお客様を招いているから忙しいんだよ!? なに呑気にしてんのさ!」 「え? そうなのですか?」  もしかしてさっきの青年のことでしょうか? 「さっさと行きなノロマ!」  常子さんがぐいぐいと押してくる。 私は仕方なく部屋に入る前に引き返すことになった。  もしかして私が渡り魂を育てている事に気づいて調べに来たのでしょうか? いえ、叔父様は私のすることに興味などないでしょうし、渡り魂と言っても見た目は普通の植物ですし……。  それなら、私がきちんと離れも掃除しているか点検にでも来ていたのでしょうか? うん、きっとそうですね。  そう呑気に考えていたけれど、私がこの時の意味を知るのはもう少し先のことになるのだった。
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