鼠族の女

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 水平に進んで行った扇の先は蝶を弾く。 勢いがつきすぎて横向きに飛んでいく。  ーーけれど。  カチ。と音がして、蝶は私が毛氈に爪で印をつけていたところピッタリに起き上がった。 更にその上に扇が吸い付くように重なる。 もちろん、箱とまたいだ状態で。  何が起きたのかと、部屋の中は静まり返った。 「夢浮橋、満点ですね」  私は立ち上がって右京を見下ろす。 右京は唖然として、私が投げた扇を拾い上げると細工がしてあることに気づいて扇を破いた。 中からはだるま落としから引き剥がした磁石が出てくる。 「俺を騙したのか?」 「そうです。けれど念書もありますし、約束を破れば私は奉行所に行きます。秋都様に手荒な真似をすれば猫族が黙っていないでしょう」  詐欺を働いているであろう狼族は奉行所と関わりたくないはずだ。 右京は大きなため息をつき、観念したように額に手を当てる。 どう出るかと身構えていると、右京は暫くしてくすくすと肩を揺らし始めた。 「くくくく、あーっはっはっは!! これは一本取られたなぁ。仕方ない、望みを言え」  右京はなぜか上機嫌だ。 案外潔い性格をしているらしい。 「無償で薬草を渡し、秋都様と私をすぐに解放してください。それから、もう一つ……」 「なんだ? 要望が多いな」 「望みは一つまでとは約束していません」 「くくく、まぁそれもそうか」  私は右京の正面に対峙して息を吸った。 「ひと月以内に遊郭を解体してください」  空気が一転して張り詰める。 右京は獲物を捉えるように目を細めて私を見た。 「そいつは無理な願いだな」 「罪に問われるのとどちらがいいですか?」  ここで退いてはいけない。 ぐっと口を結び、右京の青い瞳を見つめる。 絶対に目をそらすものか。
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