所有欲が恋になる時

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所有欲が恋になる時

 いつの間に寝てしまったのか、なんの前触れもなく私は突然ハッと目覚めた。 寝た自覚がなかったので驚きのあまり勢いよく起き上がる。 なぜか布団をかぶっているし浴衣に着替えている。  混乱しているとここが自分の部屋だということに気づいた。 それから、秋都様がじっとそばに座っていたことも。 「起きたか」  秋都様は私を見てホッとしたような顔をした。 そして、いきなり頭を下げる。 「礼を言う。すずがいなければ薬草を手に入れることはできなかった。ありがとう」 「あ……。いえ」  少し、反応に困った。 秋都様が作ったような笑顔だったからだ。 その後はお互いに何も喋らず無言の間が続く。 外ではどこかに鳥族がいるのか「チュンチュン」と鳴き声が聞こえてきた。  私は、ずっと気にしていたことを尋ねてみることにした。 「あ、あの……、やっぱり怒っていますか?」 「何がだ?」 「そ、その。私が勝手なことをしたので……」  たどたどしく答えると、秋都様は少し間を置いた後ため息をついてうなだれた。 「悪い。すずに怒っている訳じゃないんだ。ただ、すずを守れなかった自分に腹が立っている」  そう言って顔を上げると、秋都様は私に手を伸ばした。 長い指が髪を梳く。 質感を確かめるように。 「他の男に触られるのが嫌だ」  それから、不貞腐れたような顔で私の髪をツンと軽く引っ張った。  きっと右京にされた事を言っているのだ。 大金を払って得た鼠族の女。 確かに自分の所有物にむやみに触られれば誰だって嫌な気持ちになるだろう。 「あ……、す、すみません。私は秋都様のものですものね。以後気をつけます」 「そうだ。すずは俺のものだ」  秋都様はそうぼそっと呟いて、長いこと私の髪で遊んでいた。 けれどそれもそのうち飽きたのか、パッと手を離す。
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