所有欲が恋になる時

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「すず」 「はい?」 「その……、ありがとう」  少し恥ずかしそうに、けれどしっかりと私の目を見て彼は言った。 人を弄ぶような悪い笑みでもなく自信に満ちた不適な笑みでもない。 初めて見る表情だったけれど、それが飾らない心のように思えてなんだか胸が温かくなる。  良かった……。 右京に屈せずにいて、本当に。 「私、お力になれたなら嬉しいです……!」  晴れやかな気持ちいっぱいでそう言うと、秋都様は私を見て目を見開いた。 そして、顔を両手で覆って下を向く。 「あーーーー」 「え、えっ? どうされましたか!?」  何事かと顔を伺おうとしたら、秋都様は少しだけ手の隙間から顔を覗かせた。 なんとなく顔が赤い気がする。 「そうか。大人になったすずはそうやって笑うんだな」 「……?」  大人になったとはどういう意味だろう? よく分からないけれど、言われてみれば初めて秋都様の前で笑ったような気もする。 そう考えると気恥ずかしくなって私は自分の顔を確認するように触った。 「へ、変ですか?」 「違う。むしろもっと見ーー」  突然、大きく風が吹いて秋都様の言葉をかき消す。 なんと言ったのだろう? 尋ねる前に、秋都様は立ち上がった。 「今の俺なら、すずに何でもしてやれるからな」 「そう、なんですか?」 「ああ。そろそろ俺は寝る。すずも今日はのんびりしろ」 「あ、はい。そばにいてくださってありがとうございます」  秋都様は襖を開けて隣の部屋に入って行った。  何でもしてくれるなんて、秋都様……急にどうしたのでしょう?  と私は襖を見つめていたけれど、相当体力を使ったのかなんだかまた眠くなってくる。 結局、この日は一日眠りこけてしまったのだった。
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