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他の男の影
お店に入るや否や、孔雀さんはすっ飛んできて私の手を取った。
「あらぁ〜すず様!? え!? それに猫塚様も!?」
孔雀さんは私たちを見て驚いている。
私がここに来るのは一昨日以来だ。
手形を発行していたので、私は合間を見てその支払いに訪れていたのだった。
とはいえ薬を求めて診療所を回った私は怪しい人物として噂が立ってしまって質屋に入れず、お金を工面できなかったので支払いを少し待って欲しいとお願いしたのだけれど。
秋都様は、私の名を呼んだ孔雀さんを見てきょとんとしていた。
「なんだ。すず、知り合いだったのか?」
「ええ。実はこの前着物を見立ててくださいまして……」
そう説明している途中、孔雀さんは歓喜の舞をしながらバサァと羽を広げる。
すごい迫力だ。
「なによなによぉ!? すず様の逢引きのお相手は猫塚様だったのね〜?」
秋都様は孔雀さんの言葉にピクッと反応した。
「逢引き……?」
「あ、それは」
「この前お忍びでいらして、アタシがおめかしして差し上げたのよ〜」
「へぇ……?」
秋都様はチラッと私を見た。
なんだかその眼差しが冷たくて冷や汗が出る。
「あ、あの、それは」
「持ち合わせがないって言うんで手形を発行したんだけど、もぅ、お相手が猫塚様ならドカンと払って貰えば良いじゃなぁい!? まったく健気な子ねぇ! でもアタシそういう子好きよ? まぁ時には子猫チャンになって甘えるのもぺらぺらぺらぺら」
孔雀さんの勢いに押されて私はしばらく黙ってしまった。
けれど、なんだか勘違いをされてしまったような気がする。
「あの秋都様。逢引きではなくって」
「別に、俺はすずが隠れて誰と会っていようが気にしないが?」
秋都様は清々しい笑顔でそう言った。
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