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「え? あの、ち、違うんです」
「言い訳なんかしなくて良い。そうだよな、そもそも俺たちは損得勘定で結婚するようなものだしな?」
損得勘定。
さらっと言われたその言葉に、私は少し落ち込んでしまった。
そこでふと自分の気持ちの変化に気づく。
初めは家のために犠牲になったものと思っていたけれど今はそうではない。
秋都様の隣にいることを心から受け入れている自分がいる。
けれどそう思っているのは私だけ……。
私は秋都様にとってただの鼠族の女でしかないということを突きつけられた気がした。
言葉が出てこない私を見て、秋都様は余計に笑顔になった。
「この話はもうおしまいだ。で、孔雀。それはいくらだ?」
「ぺらぺらぺらぺら……え? あら、ちょっとお待ちくださいね〜」
自分の話に夢中になっていた孔雀さんは秋都様につつかれて手形を取りに行った。
秋都様は戻って来た孔雀さんから手形を受け取ると、それを眺めて懐から金貨を取り出す。
どうやら本当に私の肩代わりをするつもりだ。
「あの、秋都様。私、自分で工面しますので……」
「黙って払われておけ」
秋都様は私にそれ以上何も言わせてはくれなかった。
本当はきちんと説明がしたいけれど、これ以上この事を話すのを煩わしく感じているように見える。
それなら、触れない方がいいのでしょうか……。
「それで、今日はいかがしましょ〜?」
清算が終わった孔雀さんはツヤツヤの笑顔だ。
秋都様もずっとそれに負けないくらいの笑顔でいる。
「桜祭りの着物を仕立てに来たんだが、すずに似合うものを選んでくれ。もちろん、”この前見立てたとかいう物”より良いやつだ」
「かしこまりまして〜!」
孔雀さんは私を奥の座敷に引っ張っていくと反物をたくさん取り出して、私にあーでもないこーでもないと当てがった。
秋都様はそばに腰掛けて、それが終わるのをただぼんやりと見つめていた。
最終的に孔雀さんが選んでくれたのは淡い桃色の地に桜と束熨斗が描かれた絵羽模様の着物だ。
仮縫いの状態の着物を軽く私に着付けて、孔雀さんは下げていた簾を上げた。
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